エマヌエル・ナバレッテがウィルソンに大逆転KO。これが世界王者の底力だよな。あの局面をひっくり返せる二番底。カウントは誤差の範疇かな【結果・感想】
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2023年2月3日(日本時間4日)に米・アリゾナ州で行われたWBO世界S・フェザー級王座決定戦。2階級制覇王者エマヌエル・ナバレッテとWBO同級3位のリアム・ウィルソンが対戦し、9R1分57秒TKOでナバレッテが勝利。3階級制覇を達成した一戦である。
ところがTKO負けを喫したウィルソンは4Rにダウンを奪った際のカウントが遅すぎた、ナバレッテが明らかに時間稼ぎをしていたとして主審に抗議。地元メディアもナバレッテのダウンから試合再開までを時計付きで切り取るなど、ウィルソンに同情的とのこと。
今後、ウィルソン陣営は無効試合への変更を求めて正式に抗議する意向を示している。
吉野修一郎がシャクール・スティーブンソンに勝つ姿しか想像できない。未来のレジェンドの一番勢いのある時期に日本人選手との対戦が組まれたことってこれまであったっけ?
ナバレッテが階級に対応しきれてなかったな。もともとフェザー級時代も無双してたわけじゃないしね
エマヌエル・ナバレッテvsリアム・ウィルソン。
2階級制覇王者のナバレッテがS・フェザー級進出初戦でいきなり王座決定戦に臨んだ今回。
僕は例によってリアルタイム視聴はしていないのだが、4Rにウィルソンがダウンを奪った際のカウントが遅すぎた、ナバレッテの時間稼ぎが露骨すぎた旨の感想が多数目に入って俄然興味がわいた次第である。
で、YouTubeにフル動画がアップされていたのでさっそく観てみたわけだが……。
感想としては、ナバレッテが初めての階級に対応しきれていないなぁと。
もともとこの選手は長身と階級離れしたリーチを活かしたファイトが持ち味。身体を目いっぱい伸ばして打ち込むことによってより遠い位置からの打ち下ろしを実現していた。
だが、階級が上がればサイズのアドバンテージも目減りするし当然相手の耐久力も上がる。
また2020年10月に戴冠を果たしたフェザー級でも実はそこまで無双していたわけではない。やりようによっては攻略できるのでは? というパフォーマンスが続いていた(と思う)。
そして数日前に下記の画像が目に入り、
Liam Wilson has sensationally accused his rival Emanuel Navarrete of cheating, claiming the Mexican champion tampered with the scales in a desperate bid to make weight for their world-title blockbuster.
Story via @badel_cmail: https://t.co/tmsGlRPIRI pic.twitter.com/pjDZPIzXG7
— Courier Mail Sport (@cmail_sport) February 2, 2023
「あれ? 相手の方がデカいじゃん」
「ナバレッテ、ヤバいんじゃないの?」
と思っていたところ、案の定大苦戦したと聞いて妙に納得した次第である(あまり興味はわかなかったけど)。
てか、改めて見るとナバレッテってそこまでデカくない(身長170cm、リーチ183cm)んですね。
元S・フェザー級王者の内山高志が身長172cm、リーチ182cmなので、上背だけなら内山の方がデカい(数値上は)。
2度対戦したアイザック・ドグボエが小柄だった分、ナバレッテ=長身のイメージが先行しているのかもしれない。
持ち味のアドバンテージが完全に消えた。遠い位置から打ち込む左が普通のジャブに。でも、身体が流れるのはいつも通り…
具体的にはナバレッテが長所を発揮できていないのがキツい。
申し上げたようにこの選手の持ち味は長いリーチを活かした遠い距離からの打ち下ろし。身体を目いっぱい伸ばしてパンチを打ち込むことで距離の遠さと威力を両立する。
打ち終わりに大きく身体が流れるのが特徴だが、前に出る馬力と追撃の連打で防御のヌルさを相殺してしまう。
だが、今回に関してはここがいまいち機能しなかったというか。
サイズのアドバンテージが失われたせいで遠い位置から打ち込む左が単なるジャブにしかならない。ウィルソンがこのパンチを脅威に感じていないのは明らかだった。
逆に打ち終わりに身体が流れる癖はこれまでと同じ。一回り大きいウィルソンにとってあの瞬間はかなりのチャンスに見えたのではないか。
序盤から「カウンターが当たりそうだなぁ」「どこかでビッグヒットをもらうんちゃうか?」と思いながら眺めていたところ、4Rにドンピシャのタイミングで顎を打ち抜かれてしまった。
正直、リアム・ウィルソンは王者レベルからは一歩足りない、上位ランカーの1人という印象なのだが、その相手にあそこまで苦労するというのはなかなか厳しい。
それこそ日本の尾川堅一でも十分チャンスはありそうに思える。
尾川堅一がジョー・コーディナの狙いすました右で撃沈。距離の遠さとタイミングに慣れる前にもらったな。フラグになるから勝敗予想をしなかったのに笑
あの大ピンチからの逆転勝利はすごいよね。世界王者とそこに一歩届かない選手の地力の差を感じたよ
ただ、あの4Rのダウンから逆転したことは文句なしに素晴らしい。
5R前半のナバレッテは明らかにダメージを引きずっていたし、身体に力が入っていないのも一目瞭然。
決定力が高い相手ならば普通に仕留められていたと思う。
だが、それが逆に功を奏したというか。
4Rまでは自分から手を出して積極的に試合を動かしていたが、ダウン直後の5Rは慎重に回復を待つスタイルに。相手に先に手を出させてカウンターを狙うシーンが目に付いた。
単純に足が前に出なかっただけだとは思うが、むしろこれがよかった。
「ウィルソンの動き出しにナバレッテの左がヒット→ウィルソンが怯む→ナバレッテが追撃を浴びせる」流れでラウンドを追うごとに徐々にペースを引き戻していく。
一方のウィルソンは4Rで力を使い過ぎたか、それ以降は攻撃が雑になり命中率も上がらない。
もともと攻防のつなぎがカクカクした選手ではあったが、動き出しのタイミングがナバレッテの左とバッチリ合ってしまったのが痛かった。
そして8Rの猛ラッシュから9Rのフィニッシュまでの流れはさすが世界王者としか言いようがない。
ウィルソンもめちゃくちゃがんばったがやはり底力が違う。
スローで観るとナバレッテもたびたび危ないタイミングでカウンターを食っているのだが、そのたびに「うるぁ!!」と持ちこたえてみせる。
1発もらうと動きが止まってしまうウィルソンとは正反対。ああいうところが世界王者とそうでない選手の違いなのかもしれない。
いい勝負はするけど、何回やっても“いい勝負止まり”だろうなぁというか。
わずかな差だが、どこまで行っても埋められない決定的な差というか。
こういう二番底を見せられるたびに「世界王者ってやっぱりすげえなぁ」と認識させられる。
レイ・バルガスvsオシャキー・フォスター。フォスターは絶対に関わっちゃダメなヤツ。バルガスにとっては初めて遭遇するタイプ。三階級制覇を欲張ったせいで笑
4Rのカウントはそこまでおかしいとは思わなかった。何でもかんでも白黒つけるとスポーツの醍醐味が失われる可能性が…
ちなみに4Rのカウントについてはそこまでおかしいとは思わなかった。
多少ゆっくりかな? というくらいであの程度の間延び感は別に珍しくもない(気がする)。
それまでにも両者のパンチが後頭部に当たったりもしていたし、ナバレッテがダウンする瞬間などはウィルソンのフルスイングがが完全に後頭部にヒットしている。
ナバレッテがTKOを呼び込んだ9Rのラッシュもそう。観直してみると、ウィルソンの後頭部に何発かナバレッテのパンチが当たっていることがわかる。
要するにあんなのは流れの中で起きるものであり、いちいち目くじらを立てる話ではない。
多少カウントがゆっくりだろうが個人差の範疇。当該シーンにタイマーを添付して晒し上げるなどあまりに下品。
ウィルソン陣営があのレフェリングを不服として正式に抗議すると言っているのなら、その結果を待てばいいだけである。
ベテルビエフvsアンソニー・ヤードは僕がL・ヘビー級が好きな理由が全部詰まった試合。素で人間辞めてるヤツらが技術まで実につけちゃったw
そんなことよりもこの試合のハイライトはナバレッテの底力。あの大ピンチから逆転できる二番底、世界王者の馬力の方に注目せぇよと。
僕は基本、スポーツにおけるビデオ判定が大嫌いなのだが、その要因の一つがまさにコレだったりする。
何でもかんでもきっちり白黒つけるよりもある程度グレーな部分を残しておいた方が絶対にいい。そこのアロアンスをAI判定等で徹底排除してしまうと、生身の人間がプレーする意義、現場の生々しさ、スポーツの醍醐味が薄れてしまう。
もちろんレフェリーやジャッジには最低限の力量は必須で、忖度や地元びいきなど問題外である。
だが、その最低ラインを下回らない限りは個人差として飲み込んだ方がはるかに楽しい。今回のような過剰な批判はナンセンスだと思っている。
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