メイウェザーはボクシングを終わらせた? アンドレ・ベルトとのラストマッチ発表を受けて
2015年8月4日。メイウェザーのラストマッチの相手がアンドレ・ベルトに決定したと発表された。
9月12日にラスベガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナで行われるフロイド・メイウェザーのラストマッチ。この注目一戦の対戦相手がアンドレ・ベルトに決定したと発表された。
この発表を受けて、メイウェザーに批判が集まっている。
人気、実績明らかに格下であるベルト。パンチ力と出入りのスピードには定評があるものの、ボクシング界のキングが49連勝と引退をかけて拳を交えるには物足りないと言わざるを得ないだろう。
「激闘!! レオ・サンタクルスvsアブネル・マレス!! フェザー級注目の一戦は期待通りの大熱戦!!」
メイウェザー自身は会見で「ベルトがエキサイティングなボクサーだからラストマッチの相手に選んだ。ベルトは俺を追い込んでくれる実力の持ち主だ」と反論しているが、残念ながらその言葉に説得力があったとは言いがたい。
フロイド・メイウェザー(48戦全勝26KO)
vs
アンドレ・ベルト(33戦30勝23KO3敗)
断言しよう。3-0の判定でメイウェザーだ
はっきり申しあげよう。試合は3-0でメイウェザーの判定勝利だ。
アンドレ・ベルトはかつてメイウェザー二世とも称され、将来を嘱望された選手である。
だが元来の上半身の硬さによる打たれ弱さに加え、ここ6戦で3勝3敗と近年は完全に勢いを失っている。決して弱くはないが、依然としてスキの見当たらない動きを見せるメイウェザーの脅威になるとは考えにくいボクサーである。
とはいうものの、ロッキー・マルシアノの持つ49連勝へのプレッシャー、38歳という年齢。それらを加味すると、必ずしもメイウェザーの圧勝とは言いきれない部分もある。ましてや一発ですべてが覆るのがボクシングという競技の持つ恐さである。
そういったことを踏まえた上で勝敗を予想すると、3-0でメイウェザーの判定勝利だろう。
メイウェザーは挑戦者にとってもおいしい相手
有力選手の誰しもがメイウェザー戦をやりたがる。猫も杓子もvsメイウェザーに名乗りを上げる。それは、メイウェザーが挑戦者にとってもおいしい相手だから
である。
メイウェザーの戦い方は基本的には距離をとってのペチペチボクシングだ。無理にKOを狙うことはせず、相手の攻撃をかわしながら確実にポイントを積み重ねて判定で逃げ切るスタイルである。なので対戦相手は手痛いKO負けを食う可能性も少ないし、何より深刻なダメージを負うこともない。健康なままキャリアを続行できるという利点があるのだ。
「ケル・ブルックはウェルター級で最強に最も近いボクサーだという事実に異議はないはずだが?」
極端な話、36分間闘牛のマネごとをしているだけで巨額のファイトマネーが保証されるのである。
メイウェザー戦というのは、間違いなく挑戦者のキャリアにおけるピークである。勝敗に関わらずメイウェザーへの挑戦経験があるというだけで拍がつくし、自身の知名度も大幅に上がる。そして万が一勝ってしまえば空前絶後の大スターの仲間入りである。48連勝中のボクシング界のキングをストップさせた男として、その名を歴史に刻むことができるのだ。
「新旧超人対決クリチコvsジョシュア予想。ヘビー級最強決戦の行方は? ジョシュアはクリチコに引導を渡せるか?」
負けてもともと。勝ったら学校の教科書に名前が載るレベルの英雄。勝っても負けても深刻なダメージを負うリスクもない。自分の知名度を飛躍的にアップさせた上で、健康的にキャリアを続行できる。実際こんなおいしい相手が他にいるだろうか。
・知名度はいまいち
・実力は折り紙付き
・連続KO記録にばかり注目が集まる
・壊される可能性のあるほどの強打者
例えば、ミドル級最強のゲンナジー・ゴロフキンに挑戦するリスクとリターンを考えるとその差は歴然である。
メイウェザーとクリチコはボクシングを終わらせた? 結局、格闘技の基本は防御である
防御を極めたメイウェザーはボクシングを終わらせてしまったのか?
格闘技は成熟するほどつまらなくなる。
よく言われる定説である。
格闘技は技術が成熟して洗練されてくると、一発逆転や大番狂わせなどの想定外が起こりにくくなるものである。お互いがお互いの技術を警戒するあまりこう着状態が増え、高度な技術戦と等価交換でエキサイティングさは失われていくのである。
異種格闘技戦や何でもありのMMAでもそうである。初期段階では出場選手それぞれのバックボーンが明確に見え、「どの競技が一番強いのか」という幻想にワクワクすることができた。だが、そのうち技術形態が成熟してくると、その競技用のテクニックというものが生まれる。つまり、異種格闘技戦やMMAで効率的に勝つための方法が培われていくのだ。それによって競技レベルは格段に向上するのだが、創始者が求めたような本来のごちゃ混ぜ感、雑多な異種格闘技感は確実に失われていくのである。
「村田諒太の実力に疑問符。化けの皮が剥がれるのが1年遅れたね!!」
初期のK1やUFCがワクワクしたのは、技は稚拙でも勝つためのセオリーというものが存在しない中での戦いだったためである。何が起こるかわからないドラマチックな緊張感が常に漂っていたからなのだ。ところが今ではUFCで勝つためのスタイルが確立されてしまって、一芸に秀でたタイプの選手が勝つことが難しい状況になっている。打撃に特化した選手、寝技オンリーの選手という個性を持ったタイプが活躍する場は失われ、すべての技術を高い水準で極めた者だけが勝ち残ることができる舞台になっているのである。
突き詰めていけば、結局のところ格闘技の強さとは防御の技術である。
そして、それを体現しているのがメイウェザーでありウラジミール・クリチコである。タイプは異なるが、両者とも他の追随を許さない防御技術を持っている。
メイウェザーは人の領域を遥かに凌駕する見切りと反射神経、身体の柔軟性で相手に触れさせないほどの防御を実現していることは周知の事実である。
またウラジミール・クリチコに関しては、背が高くて動ければ負けないという、ある意味立ち技格闘技の究極かつ単純明快な答えを出してしまっている。
身長198cm。リーチが206cm。恐らくクリチコは、人間がパワーとスピードを最高水準で両立できる限界ギリギリに近い肉体を持っているのだ。相手を圧倒するだけのパワーを維持しながら36分間動き回れる、体力と持久力の理想のバランスを実現したボクサーなのである。
よく「身体の大きさだけがすべてではない」という言葉を聞くが、同じ動きができるのであれば身体が大きい方が有利に決まっているし、身体が大きければ積んでいるエンジンの排気量も大きくなるので耐久力も持久力も上がることは間違いない。クリチコはヘビー級のボクサーをも見下ろすほどの高身長と、打ち下ろし一発で相手をマットに沈めるだけのパワー、そして必要最低限のスピードを兼ね備えた完全無欠のボクサーなのである。
極端な話、左手で相手の頭を押さえた状態から残った右手で上からドカン。クリチコはこれだけで勝ててしまうのである。そしてボクシングの究極系はまさしくこれだと思うのだ。どれだけテクニックがあろうがコンビネーションの種類が無限にあろうが出足が鋭かろうが、デカいヤツが懐の深さとリーチを活かして遠くから殴っていればそっちの方が強い。ボクシングの答えは出てしまっているのである。
努力や根性といったものを全否定してしまうようで申し訳ないが、それが現実なのだから仕方ない。そして僕はクリチコのボクシングが大嫌いである。
メイウェザーのラストマッチがアンドレ・ベルトに決定した話から、最後はなぜかクリチコ批判になってしまったが、とにかく9月12日が楽しみである。
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