「リンダ リンダ リンダ 4K」感想。期待を超えるほどではないけど、妙な中毒性がある作品。ピュアさから生まれる馬力と“若いときあるある”の描写が化学反応を起こす。山下敦弘監督の術中に見事にハマったよw

「リンダ リンダ リンダ 4K」感想。期待を超えるほどではないけど、妙な中毒性がある作品。ピュアさから生まれる馬力と“若いときあるある”の描写が化学反応を起こす。山下敦弘監督の術中に見事にハマったよw

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映画「リンダ リンダ リンダ 4K」を観た。
 
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「リンダ リンダ リンダ 4K」(2025年)
 
芝崎高校軽音部の恵、響子、望の3人は途方に暮れていた。
メンバーの1人が手を骨折、ボーカルが仲違いにより離脱。
高校最後の文化祭1日前、本番も3日前だというのにバンドが空中分解してしまったのである。
 
出演を諦めきれない3人はキーボードの恵をギターに、ボーカルに韓国からの留学生ソンを引き入れ再び走り始めることに。
 
日本に慣れていないソンは1人でカラオケボックスに入ることもままならない。
急遽ギターに転向した恵もなかなか要領が掴めず、初めて4人で合わせた演奏は思わず笑ってしまうほど酷いものだった。
 
だが練習を重ねるごとに4人は息が合い始め、それに伴い絆も深まる。
夜中の学校に忍び込んだり、望の家で恋愛話に花を咲かせたり。
 
そしてライブ前日。
徹夜で練習を続けた4人はそのまま当日を迎え……。
 
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ペ・ドゥナってベイビー・ブローカーに出てた人か!! すっげえおっかない刑事役だったのに

「リンダ リンダ リンダ 4K」。
 
2005年に公開された「リンダ リンダ リンダ」のリマスター版で、2025年8月22日に上映がスタートしている。
 
と言っても僕はこの映画をまったく知らず。
たまたまYouTubeのおすすめに下記の舞台挨拶動画が出てきた次第である。

女の子4人のコピーバンドが主役の青春映画。
文化祭に向けて練習を重ねるうちにメンバーの絆が深まり、いざ本番へ!!
設定自体はよくあるものだが、非常に評判がいいとのこと。
 
また韓国からの留学生ソンを演じたペ・ドゥナをどこかで観た覚えがあると思ったら……。
 
ああ、ベイビー・ブローカーに出てた人か!! と。
 
あの映画での役どころはターミネーター並みの執念深さで主人公を追いかける刑事。正直、めちゃくちゃおっかない姉ちゃんという印象だったのだが。
 
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ところが舞台で言葉を発するペ・ドゥナさんは落ち着いたトーンで表情も豊か。
当たり前だが、ベイビー・ブローカーでの刑事役とはまったくの別人である。
そのギャップもあって本作への興味がわいたことをお伝えする。
 

おもしろかったけど、期待を超えるほどではない。もっと激動の青春!! みたいなノリだと思ってたら…

感想としては「おもしろかったけど、期待を超えるほどではなかった」
 
申し上げたように僕は最初この作品を知らず、上記の舞台挨拶動画でたまたま存在を認識した。
日本だけではなく海外でも長年にわたって評価されているとのことで、英国ではこの映画に影響されて結成したガールズバンドもあるとか。
 
そんな感じで自分の中で期待値が爆上がりだったのだが、そのハードルを超えたか? と言われると正直微妙である。
点数的には5点満点中4点、いわゆる年間何本の中のおもしろかった1本という感じ。
 
 
内容はごく普通の日々というか、ローテンションなまま淡々と物語が進む。
 
奇跡のような出来事、大どんでん返しなどは起こらない。
クライマックスの盛り上がりは確かにすごかったが、そこに向けてすべてが集約されるわけでもない。
絶望からの復活!! みたいなカタルシスがあるわけでもない。
 
あるのは文化祭直前の非日常による高揚感、フワフワとした何とも言えないリアリティ。
特別キラキラしている人間もいない、むしろ韓国から来たばかりのソンは学校に馴染めず疎外感すら漂わせる。
 
激動の青春!!
忘れ難いひと夏の奇跡!!
的なノリをイメージしていた分、テンション低めの作風はやや拍子抜けだった。
 
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作品としては荒削り。いろいろな要素がぶつ切りで“線”になっていない

はっきり言って今作はだいぶ荒削りである。
 
小学生の女の子しか友だちがいない、人が来ないことがわかりきっている日韓交流企画の準備等、ソンの孤独な描写がちょいちょい出てくるのだが、悲壮感がないのでいまいちノレない(ローテンションな作風が裏目に出ている)。
 
ソンがマッキーに告白されるシーンは今作の見どころの一つらしいが、そのマッキーが初出のせいで唐突感が尋常じゃない。
焼却炉でニアミスするカットでもあればまた違ったのだが。
 
突然の大雨によって体育館に生徒が集まるのもご都合主義すぎるし、そもそもギターは転向したばかり、ボーカルは日本語が母国語ですらない。あんな短期間で人前で演奏できるほど上達することにも違和感がある。
 
それ以外にも小出恵介の立ち位置がよくわからなかったり、あの女の子とソンの出会いが不明だったり。いろいろな要素がぶつ切りで“線”になっていない印象である。
 
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妙な引力がある。再三出てくる“若いときあるある”の描写がナチュラル

ただ、今作には妙な引力がある
 
確かに粗は目立つしびっくりするようなオチがあるわけでもない。
だがなぜか引きつけられるというか、意味不明な中毒性がある。
映画館に行ってから数日経っているが、僕はいまだに余韻に浸っている笑
 
そして、取材記事をあれこれ読んでその理由が何となくわかった気がする。
 
 
今作には“若いときあるある”の描写がいたるところに出てくる。
 
音楽を聴いて自然に踊り出す。
何でもないことに笑いが止まらなくなる。
好きな相手に告白しようとして結局言えずに終わる。
他人のプライバシーを平気で覗き見する。
お金がないので少しでも安く済ませようとする。
20年も生きていない分際で哲学的(笑)なことを言いたがる。
 
若さゆえの気遣いのなさ、謎のテンション、こじらせ、などなど。
今思い出すと小っ恥ずかしくなる、穴があったら入りたくなる行動、言動の数々に共感した方も多いのではないか(僕はした)。
 
そういった“この年代だからこそ”の演技がめちゃくちゃナチュラルなのである。
 
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ピュアにまっすぐに向き合う出演者たち。ややこしい話は偉い人に任せて自分は作品(役柄)に邁進する

要は主役の4人が作品(役柄)にどストレートに向き合っていたのだと思う。

ペ・ドゥナ「まだ演技経験も浅かった私たちが、どう演技をするかよりも、朝から晩まで練習して、文化祭を成功させることだけを思っていたことに驚きました。今の私は、座長として現場を引っ張り、映画の成功も考える立場になりましたが、あの頃の私はそんな悩みも気負いもなく、本当にピュアだったなと思いました。」


年齢や経験を重ねれば立場も求められるものも変わってくる。
商業作品である限り売り上げは切り離せないものだし、一定以上の年齢で主役を張れば作品をどう成功させるか、黒字化するかの視点も必要になる。
 
それが本人の言う「俳優としても人生でもいろいろな経験を重ねて垢が染みついた自分」なのだと思うが、この「リンダ リンダ リンダ」ではそういったことを考えずにやれた。
 
売り上げや評価等のややこしい話は偉い人に任せておけばいい。
自分はとにかく作品を作り上げる(文化祭を成功させる)ことに邁進するのみ。
 
20年ぶりに今作を観て当時のピュアな自分に驚いたとのことだが、そのピュアさから生まれる馬力が上記の“若いときあるある”の描写と相まって意味不明な化学反応を起こしたのではないか。
そこに作品全体のローテンションさが上乗せされ、謎の中毒性を生み出しているのだろうと。
 

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山下敦弘監督の計算通りだったみたい。僕は思いっきりハマってたw

また下記を読むと山下敦弘監督はそれらを計算してやっていたっぽい。


恵、響子、望の3人がブルーハーツを聴いて恵と響子が踊り出すシーン。本来は望も入れて3人で盛り上がる予定だったが、望役の関根史織が気後れして乗り遅れてしまったと。
だが、そっちの方がリアルでいいとOKになったとのこと。
 
逆に制服の着方は細かく注文が入った。
恵はリボンをゆるゆるに、逆にソンはスカート丈を長く真面目さを強調する、などなど。
 
僕は劇場で「みんなが盛り上がっているところに入っていけないタイプっているよね」「確かに同じ制服でも人によっていろいろアレンジしてたよね」と思いながら観ていたのだが、なるほど。思いっきり監督の術中にハマっていたわけね笑
 

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作品単体ではなく取材記事や関連動画でエモさを感じるまでがセット

そんな感じで、結論としては今作は「期待を超えるほどではないけど妙な中毒性がある」
余韻に浸りつつ取材記事や関連動画を漁ってエモさを感じるまでがワンセットである笑
 
そう考えると最終的に5点満点中4.8点くらいはありそう。
作品単体ではなく、そこからノスタルジーが上乗せされて評価も割り増しになるw
 
あとはアレだ。
最後のライブシーン、プロのミュージシャンである関根史織と経験のある前田亜季は普通にうまかったが、ギターの香椎由宇はずっと直立不動だったのが……。
この辺はやはり“やっている人”と“やっていない人”の差が出たなと。
 
 
てか、マツケンって本当に変わらないよね。

 
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