ゴロフキンの左リードのすごさを考える。“意識の外から飛んでくるパンチ”が無造作過ぎて準備がちっとも間に合わない

ゴロフキンの左リードのすごさを考える。“意識の外から飛んでくるパンチ”が無造作過ぎて準備がちっとも間に合わない

「ボクシング記事一覧リンク集」へ戻る
 
先日、ゲンナジー・ゴロフキンとサウル・“カネロ”・アルバレスによるミドル級3団体統一戦からちょうど3年ということで、当時の試合を観直した次第である。
 
物議を醸したカネロvsゴロフキンVol.1から3年。改めて観てみたけどおもしろい試合。ゴロフキンのジャブのすごさとド派手なカネロのカウンター
 


同時にそれ以外のゴロフキンの試合もいくつか視聴したのだが、その際「全盛期のゴロフキンのすごさは左リードと足運び」と申し上げている。
 
中でもヤバいと思ったのが2015年10月のvsデビッド・レミュー戦。
ゴロフキンの保持するWBAスーパー/WBC暫定と、レミューが保持するIBF王座を賭けて行われた3団体統一戦。

王者同士の激突、しかも相手が豪打のレミューということでそれなりに期待感もあったわけだが、蓋を開けてみれば何のことはない。いつも通りのゴロフキンのワンサイドゲームが展開される。
 
遠い位置から何度もアタックをかけるレミューに対し、ゴロフキンは左リードで応戦。IBF王者レミューにほぼ何もさせず、ひたすら左で痛めつけた上での8RTKOという結末に。
 
この試合はゴロフキンのキャリアの中でもベストパフォーマンスの一つだと思っているのだが、今回はその理由というか、ゴロフキンの左リードについて僕が思ったことを好き勝手に述べていくことにする。
 
 
まあ、僕は別にゴロフキンのファンというわけではないのだが、この選手が歴史に名を残すレベルで偉大なミドル級王者なのは間違いないと思っているので。
 
ゴロフキンがシェルメタを7RKO。全盛期なら2Rで終わってたな。もう村田かチャーロとやるしかないっしょ
 

ゴロフキンの左リードの無造作っぷりがすげえww 相手に攻撃の意思を読ませず、準備を許さない

ゴロフキンの左リードのすごさをひと言で表すなら、あまりに無造作なこと。
 
腕を前に掲げて適度に脱力した状態から、予備動作なしでスッと打ち出す。
この“予備動作なし”というのが最大のミソで、動き出しの瞬間の力みを極力ゼロに近づけることで相手に攻撃の意思をいっさい感じさせない。
 
普通にてくてく歩いて相手に近づき、その流れのまま腕を振り上げるとかそんな感じ。
歩幅も腕を振るスピードも同じで、ただただリズムを変えて“無造作に”拳を突き出すのみ(イラストのテキトーさは気にするな)。

 
まあ、現実にはそんなことはあり得ないのだが、ゴロフキンの左リードはマジでそれに近いものがある。
静から動への移行にまったく力みや淀み、引っかかりがなく、とにかく無造作。
 
 
特別スピードがあるわけでもなく、無理に力を込めている感じもしない。
 
だけど、めちゃくちゃ当たる。
ゴンゴン当たる。
そして効く。
 
攻撃の意思がないところから突然パンチが飛んでくるので、相手は準備が間に合わない。
 
たとえガードできなくても、打たれる瞬間がわかれば覚悟を決めることができる。覚悟が決まれば多少強い衝撃でもダウンを免れることが可能。
 
ところがゴロフキンの左リードにはそれがない。被弾の準備が整う前に飛んでくるので、思った以上に効いてしまうのだろうと。
 
漫画「はじめの一歩」でいうところの“意識の外から飛んでくるパンチ”というヤツなのだと思うが、全盛期のゴロフキンのジャブはそれを見事に体現していた(気がする)。
 
井上尚弥が自分を見失って絶不調の可能性? ジェイソン・モロニー(マロニー)に付け入る隙はあるんすか? 長谷川穂積と井上の共通点
 

全盛期のゴロフキンは強弱のメリハリもすごかった。カーティス・スティーブンスのびっくり顔は今でも印象深い

もちろん予備動作を大きく助走を長く取った方が、生まれる力はより大きなものになる。
だが、当然ながら予備動作が大きくなればなるほど読まれやすく、それだけ相手に反撃のチャンスを与えることにもなる。
 
逆に動き出しを小さくすれば相手に読まれにくくなるが、その分威力も落ちる。
 
どの選手も相手の戦力と自分の適正を比較しつつ、この部分の最適バランスを探りながら試合に臨むのだと思うが、全盛期のゴロフキンは予備動作の小ささと相手を倒す威力という相反する二つを見事に両立していた。
 
 
そして、この部分の振り幅がめちゃくちゃ大きいのも特徴だったように思う。
 
申し上げたようにゴロフキンは打つ際のアクションを極力小さくすることにより、相手に攻撃の意思を察知させない無造作な左リードを得意とする。
 
だが、カウンターを狙う一瞬の力の込め具合や勝負どころでのギアの上がり方は尋常ではない。それこそチャンスでの畳み掛けは相手が気の毒になるほど。
 
2013年11月のvsカーティス・スティーブンス戦などはマジでとんでもない。
もともとスティーブンスは攻防兼備の好選手で、全盛期のゴロフキンの対戦相手の中でも2015年5月のウィリー・モンローJr.と並んでトップレベルに位置する(と思う)。
 
実際、1Rはゴロフキンとも五分に近い差し合いを展開するなど、マジで期待感のある立ち上がりだった。
ところが2Rの残り30秒を切ったあたりで突然ゴロフキンがギアを上げ、渾身の左フック2発で壮絶なダウンを奪う。
 
そこまでは予備動作を消した力感のないフォームで差し合いを展開していたのだが、打ち終わりに絶えずカウンターを返すスティーブンスにしびれを切らしたイメージ。
「ああ、めんどくせえ」という感じでいきなりフルスイング2発でなぎ倒し、一気に試合の流れを決定づけてしまった。
 
ダウンしたスティーブンスの「何じゃこれ?」というあっけにとられた表情はゴロフキンのハイライトで必ず登場するシーンだが、こういう強弱のつけ方もゴロフキンの持ち味と言える。
で、全盛期のそれは特にすごかったですよという話。
 
というか、紳士ぶってはいるけど実は気が短いナチュラル畜生という噂もありますが()
 
村田諒太vsゴロフキン正式発表。予想云々はともかく勝つしかねえよ。厳しい試合になると思うけど、最初から攻めるしかないんじゃない?
 

ゴロフキンと同様の左リードの使い手はアイツ。相手の動き出しを察知する能力に長けたヤツら

ちなみにだが、ゴロフキンと同様に動き出しの予備動作が少ない選手としては、個人的にはビクトル・ポストルを挙げたい。
 
以前から申し上げている気がするが、ポストルは力感のない左リードに加えて相手の動き出しを察知する能力に長けている。
 
中でもそれが顕著だったのが下記の試合、2015年10月のvsルーカス・マティセ戦。

相手が攻撃に移る際の硬直、身体に力を込める“溜め”の瞬間を狙って左リードを放つ。
 
マティセという選手はもともと動き出しのアクションが大きくスピードがある方でもない。そのため、ポストルのような長身のジャブ使いとはすこぶる相性が悪い。
 
デビッド・レミュー同様に動きも直線的で、絶望感という意味ではゴロフキンvsレミュー戦とも近いものがあった。
 
まあビクトル・ポストルはね。
長身から打ち下ろすジャブは確かに強烈だったが、とにかく虚弱過ぎたのが……。
相手に強引に来られるとタジタジになってしまう場面が多く、トップ中のトップには一歩及ばないのが何とも残念だなぁと。
 
僕のポストル…。ホセ・カルロス・ラミレスは強化版ルーカス・マティセだったな。統一戦が実現しないならvsパッキャオが観たい
 
また、歴代日本人の中でこれ系の選手として思いつくのは、元WBC世界S・フライ級王者の佐藤洋太。
公式の動画がないのでアレだが、それがもっとも顕著だったのが2011年8月の赤穂亮戦である。
 
僕の中での赤穂亮はデビッド・レミューやルーカス・マティセと同系列。動きが直線的で動き出しの予備動作が大きく、とにかく相手に読まれやすい。パワフルかつ身体の強さもあるのでそうそう負けることはないが、ガチの試合巧者と対峙すると手も足も出なくなってしまう。
 
若干虚弱気味だが長身+力感のないジャブ使いの佐藤洋太とは、ポストルvsマティセ以上に相性が悪かった(と思う)。
 

左リードの使い手と言ってもいろいろいるよね。それを上回るスピード&パワーがあればすべてをチャラにできる

左リードの使い手と言われてパッと思いつくのは元WBA王者アイク・クォーティだが、あの選手はゴロフキンやポストルとは少し違う。
 
見るからに強そうな上体や腕力を活かしたパワフルな左リードというイメージ。
 
現役選手で言えばWBCミドル級王者ジャーマル・チャーロが同系統かなと思うが、彼らのような上半身中心の剛腕タイプと、下半身との連動で威力を生み出すゴロフキンの左リードは一線を画すものがある(気がする)。
どちらが上とか下という話ではなく。
 
 
最近だと、2020年7月のOPBF L・フライ級タイトルマッチ、堀川謙一vs冨田大樹戦からも似たものを感じた。

堀川謙一は決してジャブ使いというわけではないが、モーションの大きい冨田大樹の動き出しを読み切り、ことごとく先手を奪っての10RTKO勝利。下馬評では不利予想が多かったらしいが、本当にお見事な試合運びだった。
 
堀川謙一すげええぇぇ…。無敗の冨田大樹を圧倒TKOで東洋太平洋L・フライ級王座戴冠。ちょっとラベルが違いましたねラベルが
 
 
まあ、アレっすよね。
動き出しを読まれようが、それを上回るスピード&パワーがあれば関係なくなるっていうのもあるっちゃあ、ありますよね。
 
全盛期のシェーン・モズリーとかはマジでそんな感じだったし、逮捕される前のマイク・タイソンなんかは最初から相手がビビって及び腰になっていた。
元フライ級王者木村翔に関しては、最初にフルスイングを見せて威嚇するみたいなのもあるし。
 
フロイド・メイウェザー戦のマルコス・マイダナのように、駆け引きをいっさい排除して腕を振りまくることでペースを引き寄せるやり方も一つの正解ではある。
 
相手の心の乱れや疲労度や集中力の切れ具合など。
とにかく“小さく速ければいい”という単純なものでもないのがおもしろいっスよね。
 
 
結局スピード&パワーですべてをチャラにすればええんちゃう? っていう……。
長々と語ってきて、最後の最後であまりにも本末転倒ですが。
 
「ボクシング記事一覧リンク集」へ戻る
 

Advertisement

 




 

 
【個人出版支援のFrentopia オンライン書店】送料無料で絶賛営業中!!