映画「世界征服やめた」感想。北村匠海は解釈を視聴者側に委ねすぎ、若さを拗らせすぎ、クリエイティブに走りすぎで面倒くさい。不可思議/wonderboyの“説明書”としてはよかった
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映画「世界征服やめた」を観た。
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「世界征服やめた」(2025年)
会社勤めの彼方は鬱屈としていた。
毎日決められた時間に起床、同じ道を通って同じ電車に乗り同じような仕事をこなす。
会社の人間はみな自分に興味がなく、まるで感情を失ったロボットのよう。
「生きるために生きている」だけの自分、何も変えられない、変えようともしない自分を受け入れつつも不満は少しずつ蓄積していた。
そんな彼方に対して同僚の星野だけは遠慮をしない。
彼方が嫌がってもお構いなしにずけずけと立ち入ってくる。
飄々としつつも物事をはっきり言う星野を疎ましく感じる彼方だが、どこかで彼の図々しさに救われてもいた……。
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北村匠海の初監督作品。不可思議/wonderboyが好きだったこともあって映画館に足を運んだ
北村匠海の初監督作品。
2011年に不慮の事故で亡くなった不可思議/wonderboyの代表曲「世界征服やめた」を原案とした短編映画で、撮影期間はわずか3日。彼方役の萩原利久、星野役の藤堂日向とはプライベートでも交流があるとのこと。
僕がこの作品の存在を知ったのは本当にたまたま。適当にYouTubeで音楽を流していたところ、合間にCMが入って「お、こんなのがあるんだ」と。
もともと不可思議/wonderboyが好きだったこともあり、「まさか(今になって)ここを映画化するとは」と思ってチケットを購入した次第である。
なお今作は51分とかなり短く値段も安い(1600円)。
仮にしょっぱくても耐えられると思ったのも観に行くことにした理由である。
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感想は「よーわからん」。同僚・星野の解釈が謎。いろいろと抽象的でしんどかった
全体の感想だが、よーわからん。
言いたいことは何となく伝わってきた。
北村匠海がクリエイティブ志向なことも想像がつく。
メイン2人が同世代の仲間? の初監督作品に全力で協力したというのも理解できる。
ただ、よーわからん。
とりあえず同僚・星野の解釈が謎。
彼方の心を投影した分身? なのか、現在進行形で実在しているのか。
じゃんけんであいこが続いたり居酒屋で目覚めた際にいなくなっていたことを考えると彼方の写し鏡的な存在かな? と思ったが、屋上での独白シーン(彼方が見切れる)を観ると「やっぱり普通に存在してるのか?」となる。
彼方の想像上の世界と現実がリンクしていて、もしかしたら星野はすでに亡くなっていて……。
うん。
よーわからん。
それ以外にも抽象的な表現が多すぎてしんどかったことをお伝えする。
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行きすぎたクリエイティブ志向と視聴者側に委ねる割合の多さ。はっきり言って「面倒くさい」
この辺は北村匠海がさじ加減を間違っている印象。
クリエイティブ表現をやりたいあまり説明不足に陥ったというか。
といいつつ、ナンセンスに振り切るにはカッコつけすぎ。
音楽のPVならこれでも許されるが、映画作品としては“こちら側”に委ねる割合が多い。
初監督作品ということでまだまだ稚拙なのかなもしれないが、逆に「この先鋭さを理解できてこそ!!」的な空気もあったりなかったり。
諸々をひと言で表すなら「面倒くさい」。
ハッピーエンド大好き、映画はわかりやすくてナンボの僕にとって今作は余計なノイズが多くていまいち入り込めなかった。
不可思議/wonderboyの“拗らせた若さ”。じゃあ北村匠海はどっち側だったの?
僕は不可思議/wonderboyのことが好きだが、この人の青臭さを全面的に肯定しているわけではない。
特に原案となった曲「世界征服やめた」は彼の“拗らせた若さ”がモロに出ている。
僕も十代半ばの頃は自分が人とは違う特別な存在(具体的なものはない)だと思っていた。生きる意味や生まれてきた意味を考えて絶望したこともある。
これは少なからず誰もが通る道だと思うし、不可思議/wonderboyの曲には懐かしさと恥ずかしさを感じていた。
23歳没、ポエトリーラッパー、自主制作シングルのタイトルが「生きる」。
これらを見る限り彼自身はまだまだ“真っ最中”だったと想像する。
何年か前に下記を観て、道行く人が素通りする中で全身全霊でシャウトする姿に妙に納得したことを覚えている。
そして、今回の北村匠海はどちら側なのか。
拗らせど真ん中の不可思議/wonderboyと同じ目線で今作を作ったのか、もしくは「そういう時期ってあるよね」的な俯瞰の視点を持っていたのか。
高校時代の教師に若者の陥りやすい傾向として
「自分の目に入る範囲内で結論を出しがち」
「世界はもっと広いのに、狭い視野ですべてを判断しがち」
と言われたことがある。
要は「大した経験もないうちからわかった気になって勝手に達観してんじゃねえ」「世の中にはお前の知らないことがいくらでもあるんだよ」という意味なのだが、その点北村匠海はどうだったのか。
正直、僕は拗らせたままなように感じるのだが。
達観した独りよがりの思考をそのまま出すのか、あくまで過去のものとして俯瞰で描くのか。
強めの思想? 思考? を表現する場合は第三者的な冷めた視点が重要だと思っている。
今作にはそこが欠けていた(ように思える)のがいまいち刺さらなかった理由である。
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誰もが漠然とした不安を抱えている。無理に突き抜ける必要はない。それが「自分だけの世界征服」
代わり映えのしない日々。誰も自分に関心がない無機質な世界。
この瞬間に自分がいなくなっても変わらない。問題なく世界は回っていく。
何かを変える力も行動力もない彼方はつくづく自分に嫌気がさす。
そんな中、やたらと楽観的で図々しい星野に救われながらも「お前は気楽でいいよな」「でも世の中ってそんな単純じゃねえだろ」と軽蔑する思いも混じっていた。
だが、そうじゃなかった。
周りの人間も自分と同じように悩みや不満を抱えているし、生きていく上での割り切りもある。
表面上は能天気に振る舞う星野にも当然鬱屈した感情、不安や不満が内在する。
無表情で無機質に見える人たちも実は感情を持った1人の人間。
それに気づいた彼方の世界は昨日よりも少しだけ色味が増した。
自分だけが動いていた世界がようやく回り始めた。
毎日の繰り返しは刺激が少ないが、小さな幸せや楽しみはそこら中に転がっている。
朝、通勤で別の道を通ったら違う景色が見えたり、居酒屋のポテトサラダが旨かったり。マスターが閉店時間を過ぎても放っておいてくれたり。
もちろんマスターも“自分が主役”の人生を生きていて、今日も尊い“明日”を待っている。
別に無理に突き抜けなくてもええんちゃうか?
ナンバーワンにもオンリーワンにもなれないが、いちいち悩んで絶望する必要はない。
自分のペースで平均値を上げていけばいいんじゃないの?
くよくよすることがあっても、立ち止まりながら少しずつ進んでいけばいい。
それが「自分の世界を征服する」ってことでしょ?
みたいなことを言いたいのかなと思っているのだが、どうだろうか。
そして上述の通り全体を通してクリエイティブに走りすぎ&若さを拗らせているせいで面倒くさい仕上がりになっている笑
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エンディングに「世界征服やめた」をフルで聴かせたのはよかった。要するに今作は“説明書”だよね
ちなみにエンディングで「世界征服やめた」の原曲をフルで聴かせたのはよかった。
僕はもともとこの曲を知っていたが、歌詞を深く理解しようとしたことはない。薄っすらと「理想と現実のはざまで揺れる若者が~」程度に捉えていた。
だが、今作を観た直後は歌詞がスーッと入ってくる。
星野の独白が耳に残っていたおかげで改めて歌詞を振り返ることができた。
さらに「ああ、不可思議/wonderboyってこういう芸風だったな」「ポエトリーリーディングの醍醐味ってこれだよな」とも思わせてくれた。
恐らくこれは短い尺ならではだし、青臭いセリフの数々を薄ら寒い空気を出さずに言い切った役者陣の力も大きい(と思う)。
なので、僕の結論としては今作は「不可思議/wonderboy『世界征服やめた』の説明書」。
不可思議/wonderboyの強烈な“叫び”にかき消されていた歌詞をしっかり(1時間弱、映像を駆使してたっぷり)と説明する作品である。
おかげで僕はこの曲をもう一度ちゃんと聴こうと思ったし、隠れた名曲が世に知られるきっかけにもなった。
一応言っておくと、曲の意味と映画の内容がぴったり合致しているわけではない。
今作のHP上で北村匠海が
「自分は不可思議/wonderboyに救われた」
「あなたの曲に救われた人はたくさんいると伝えたかった」
とコメントしているが、僕に限って言えばその意図は成功である(別に救われてないけど)。
コメントを読む限り北村匠海は“まさにな人”なのだが、いわゆる表現者としてはマイナスにはならないのかもしれませんね。
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