ケル・ブルックはウェルター級で最強に最も近いボクサーだという事実に異議はないはずだが?

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夕焼けイメージ
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ケル・ブルックはメイウェザーを除けば間違いなくウェルター級最強である。

2015年5月30日。
イギリスのロンドンにあるO2アリーナで行われたIBF世界ウェルター級タイトルマッチ。チャンピオンのケル・ブルックが同級4位のフランキー・ギャバンと対戦し、終止ギャバンを圧倒し続けたブルックが6回2分51秒でTKO勝ち。2度目の防衛に成功した。
ケル・ブルックの戦績は35戦全勝24KOとなり、今後のさらなるビッグマッチが期待される。

「正気か? ケル・ブルックがゴロフキンに挑戦? しかもミドル級正規のウェイトで?」

サウスポーのギャバンを相手に圧倒的な力の差を見せたブルック

はっきり言ってブルックの圧勝だった。

試合開始からプレッシャーをかけ続けるブルック。オーソドックスな構えからシャープな左、そして右を的確に当てていく。しなやかな筋肉に覆われた褐色の身体は見るからに強そうで、明らかにギャバンよりも一回り大きい。

対する挑戦者ギャバンはブルックの圧力に手が出せない。広いスタンスで半身に構えるサウスポーのギャバン。後ろ足に重心を乗せて、強い防御への意識が感じられる。

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ギャバンの右リードブローにブルックが左のフックを合わせる。さらに長い右ストレートがギャバンの顔面を捉える。ギャバンの顔が弾ける。鋭い踏み込みからパンチを返すギャバン。だが身体の強いブルックに難なく押し返される。重心が後ろに乗り過ぎのため、いまいち力が乗っていないのも痛い。
ブルックの前進に圧されてロープを背負うギャバン。ブルックはそこから一気に畳み掛けることはしない。細かいパンチを出しつつ相手のダメージをじっくり確認しながら勝機をうかがう。
ブルックのパンチを被弾し続け、徐々に顔面が紅潮していくギャバン。時折左に右をかぶせるが、やはり体重が乗らないパンチなのでブルックを止めることはできない。ジリジリとギャバンのダメージが蓄積されていく展開。

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そして6R。
すでにダメージが蓄積しているギャバンの足取りは重い。
フック、ストレート、アッパー。右、左。
ガードも甘くなり、ブルックのパンチをモロに被弾している。ロープに詰められ、ブルックのコンビネーションに無抵抗にさらされるギャバン。息も絶え絶えだ。

ブルックの浮き上がるような右アッパーでギャバンの顎が上がる。さらに追い討ちをかけるように右ストレートがガードの間からヒット!!
ギャバンの腰が落ちる!
効いた! これは効いた!!
ギャバンが身体を丸めて後退する!!
この機を逃さないブルック。ロープに詰まったギャバンに左右打ち下ろしのパンチの雨を降らせる。亀状態で身体を振ることしかできないギャバン。
ブルックの右アッパーから返しの左フックがヒット!! ギャバンがロープに座り込むようにダウン!!
その瞬間レフェリーが割って入り、両手を交差する。
試合終了。
6回2分51秒、ケル・ブルックのTKO勝ち。

圧勝だった。文句のつけようがないくらい圧勝だった。

ケル・ブルックはキース・サーマンよりもアミール・カーンよりも強いぞ

個人的にこのケル・ブルック、現時点のウェルター級では最強ではないかと思っている。もちろんメイウェザーを除いてだが。
アミール・カーン、キース・サーマンなど、メイウェザーとの対戦候補は数人いたが、その中でもケル・ブルックが最もメイウェザーを慌てさせる可能性があるボクサーなのではないかと思っているのだ。

以前はアミール・カーンを推していたが、前回のクリス・アルジェリ戦を観てちょっと厳しいかなと思ってしまった。

「アミール・カーンはメイウェザーの相手にふさわしいのか?」

カーンを封じるには、クリス・アルジェリがやったように、接近戦でスペースを潰して高速コンビネーションを出させなくするのが最も有効である。接近戦に不慣れなアルジェリは試合後半に息切れしてしまったが、メイウェザーは間違ってもそんな轍は踏まないだろう。ペース配分を考えながらカーンの攻め手を封じて確実にポイントを重ねていくはずである。

また、ケル・ブルックもカーンに対しては間違いなく接近戦を選択する。そして、ブルックの体力があれば息切れすることもない。恐らくカーンがフラストレーションを溜め込んでいる間に左右のショートフックでポイントを重ねる展開になるのではないか。そしてチャンスがあればロングストレートをお見舞いしてのKOという結末も十分に考えられる。

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キース・サーマンにしてもそうだ。
あの激しい出入りからの好戦的なスタイルにも、ブルックは恐らく冷静に対応するはずである。ブルックの身体の強さがあれば、サーマンに押し込まれることはないし、そこまでスピード負けすることもないだろう。身体を密着させてのショートのパンチ、相手を下がらせてからのロングフック、そして上下のコンビネーション。この変幻自在のスタイルでサーマンからも勝利を奪うのではないだろうか。

さらに前回のジョ・ジョ・ダン戦、今回のギャバン戦でサウスポーをまったく苦にしないことも証明された。総合力という意味では強豪ひしめくウェルター級の中でもブルックがNo.1と言っても過言ではない。

ブルックのよさは相手のいいところを消す力。そして時折見せるハメドの系譜

ブルックのよさはとにかく総合力がダントツに高いことにある。そして、ボクシングの幅が広いこと、それを実行できるだけの身体の強さがあることである。

ポール・マリナッジをボロ雑巾のようにKOし、飛ぶ鳥を落とす勢いだった突貫小僧ショーン・ポーターに正面衝突で身体負けしなかった試合は本当に驚いた。ポーターの突進を止めるには身体を密着させて思い切り腕を振らせないことが最善であることは明白なのだが、ブルックはそれを実行しつつそこからさらに反撃したのである。

先日のブローナーも接近戦でポーターの連打を封じる作戦を選択したが、体力的に止めるだけで精一杯だった。結局そこから反撃するには至らず、判定負けを喫してしまったのだ。

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距離を潰して相手にパンチを出させなくする。
簡単なことに思えて、実は大変な作業なのである。相手以上に自分の体力や気力をすり減らし、なおかつ観客からは「つまらない」とブーイングを浴びせられる。さまざまなプレッシャーに耐えて初めて実行できる作戦なのだ。

また、ブルックにはチャンスで一気に畳み掛けるだけの十分な突進力もある。基本的に身体で負けることはないので、相手をロープに詰めてのラッシュは迫力満点である。上下左右の打ち分けもスムーズで、ガードの間を通す正確性も兼ね備えている。
防御に関してはガードが低く、不用意な被弾を許す場面がやや見受けられるが、それもここ数試合を観る限り改善されてきたように思える。

そして何よりの魅力は、時折見せるナジーム・ハメドの系譜である。
ケル・ブルックのトレーナーであるドミニク・イングルはナジーム・ハメドを育てたブレンダン・イングルの息子。その影響からか、ケル・ブルックのボクシングの端々にハメドの系譜が感じられるのである。
ゴムのような筋肉。左側に身体を倒すフェイント。いきなり飛び込む右アッパー。相手との距離を一気に詰める鋭い踏み込み。柔軟な上半身を使ったスウェー。ボクシングスタイルこそまったく違うが、間違いなくハメドの血が受け継がれているのだ。

僕がメイウェザーvsケル・ブルックを推していた理由の一つがこれで、ハメドvsメイウェザーの時空を超えた戦いが観たかったのである。変幻自在の「プリンス」ナジーム・ハメドのスタイルを受け継ぐボクサーが、その当時から輝き続けるメイウェザーという生ける伝説に挑む構図。考えただけでワクワクしないだろうか。

イギリスで人気があり過ぎるのが逆にネックになっているブルック

ここまでさんざんブルック最強説を唱えてきたのだが、残念ながらこの先ブルックがスーパースターになるとは思えないのが正直なところである。

原因はイギリス本国でのボクシング人気、そして本人自体の人気だ。
ここ数年、イギリス本国でのボクシング人気に加え、アメリカでショーン・ポーターを倒してタイトルを獲得したことでケル・ブルックの人気はうなぎ上りである。
つまり、イギリス国内で防衛戦を重ねていくだけで十分な報酬が得られてしまうのだ。わざわざボクシングの本場アメリカに乗り込まなくても、本拠地の強烈な声援を背に箱入りチャンピオンをやっているだけである程度の満足感を得ることが可能なのである。

これは日本人ボクサーにもいえることである。
国内で防衛戦を重ねていくだけである程度の収入と尊敬を得られるので、わざわざ危険を冒して知名度ゼロのアメリカに乗り込む必要がない。国内の箱入りチャンピオンとしてそこそこの相手を呼んで防衛戦をする方がはるかに割がいい。ボクサー本人もさることながら、所属ジムの意向もそちら側を選択する傾向にあるのだろう。なかなか海外へ出て試合をするチャンピオンが出てこないのもうなずける。

ただ、そこそこの相手との防衛戦を繰り返していると劣化を早めるという弊害があることを忘れてはいけない。長谷川穂積がそのいい例だし、最近では神の左を持つと言われる山中信介にも劣化の傾向が見られる。得意の左だけでKOできるレベルの相手ばかりなので、あまりにも左を狙い過ぎて全体的なスピードやガードの脆さなど、他の部分での劣化が始まっているように感じるのだ。

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ケル・ブルックにはどうにかその道をたどらないで欲しいと願うばかりである。

スタイルに華がないのが致命的

ケル・ブルックがスーパースターになれると思えない理由のもう一つが、そのボクシングスタイルにある。

先ほども言ったが、ブルックの持ち味は相手のよさを消すボクシングにある。そして、そのボクシングスタイルには致命的に華がない。

ブルックのボクシングの特徴は、相手のよさを消してペースを狂わせるスタイルにある。自分のよさを発揮するというよりも、相手に持ち味を出させない術に長けているのである。
高度なテクニックの応酬なのは間違いない。だが観ていて楽しくない。これはかつてのバーナード・ホプキンスにも通じるものだが、人気商売のプロボクシングでは相当厳しい。

知名度は低いけど強い。強いけど無名。
これは対戦相手にとってはリスクばかりが大きくて、メリットが少ない。はっきり言って試合をする相手としておいしくないのだ。対戦を熱望しながらメイウェザーに相手にもされなかった理由もこの辺にあるのだろう。

その点では、アミール・カーンの高速コンビネーションを駆使したボクシングには華があるし、そのルックスも含めてスターとしての素質はブルックよりもはるかに上である。

以上がブルックがスーパースターにならない理由なのだが、個人的にはどうにかこのボクサーの強さが証明される機会が訪れることを願っている。そういう意味ではブランドン・リオス戦が合意寸前で破談になったのは非常に残念でならない。

何とかこのケル・ブルックをトップ戦線にねじ込みたいものである。例えばティモシー・ブラッドリーやサダム・アリとぶつけて究極の塩試合を演出してみたらどうだろうか。まったく盛り上がらない興業になること請け合いだが。

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