悲痛のワリエワ4位。女子フィギュアの尋常じゃないレベルアップ。10代半ばでピークを迎えて2度目の全盛期を待ってくれないロシアの構造?【2022年北京五輪感想】
2022年2月17日に行われた北京オリンピック女子フィギュアスケート。前日のショートプログラムで80.20点の2位につけていたアンナ・シェルバコワ(ROC)がフリースタイルに登場。175.75点の高得点を挙げ、計251.73点で見事金メダルに輝いた。
また優勝候補のカミラ・ワリエワはショートプログラムで82.16点を記録し首位に立ったものの、フリースタイルでは立て続けにジャンプを失敗し141.93点と低迷。最終順位はまさかの4位に沈んでいる。
以前申し上げたように僕は2021年東京オリンピックのゴタゴタに嫌気がさし、“オリンピック”と名のつくものにまったく興味がなくなっている。
→僕が東京オリンピックに興味が持てない3つの理由。開催に美学を感じない。日本の獲得メダル数の最多更新が成功の最低条件だろうな
→東京オリンピック2020総括。競技を1秒も観ていない僕が今回のオリンピックを評価する。アスリートファーストという言葉が世界一嫌いになった
今回の北京オリンピックでも興味のなさは続いており、ここまで1秒も中継を観ずに過ごしてきた。
ただ、女子フィギュアだけは興味が湧いたために初めてチャンネルを合わせた次第である。
というわけで、今回は僕が唯一視聴した北京五輪女子フィギュアスケートの感想を言っていくことにする。
- 1. 女子フィギュアに興味が湧いたので1秒も観てなかったオリンピックを観てみたらワリエワの演技にオドレエタ
- 2. 2014年ソチオリンピックで止まっている女子フィギュア。あれほど優雅だと思っていた演技がもっさりしていて洗練さとはほど遠い
- 3. シェルバコワの完成度、トゥルソワのジャンプに開いた口が塞がらない。そのすべてを“絶望”が黒く埋め尽くすと思っていたら…
- 4. ロシア(ROC)の選手は演技が“黒い”。うまく言えないけど“黒い”
- 5. 入れ替わりの早さが凄まじい。10台半ばでピークを迎える女子フィギュアはそこから低迷期に入る
- 6. 新陳代謝が激しすぎて2度目の全盛期を待つ土壌がない。低迷期を乗り越えてもう一度ピークを引っ張り出すのも女子フィギュアの醍醐味なんだけどね
- 7. ワリエワにとっては最初で最後のオリンピック。辞退する選択肢なんか存在しなかったんだよ
女子フィギュアに興味が湧いたので1秒も観てなかったオリンピックを観てみたらワリエワの演技にオドレエタ
まず僕が女子フィギュアを観ようと思った理由は一つ。
渦中のカミラ・ワリエワに興味が湧いたから。
もともとこの選手については名前を聞いたことがある程度で、実際の演技はほぼ観たことがない。「金メダル候補筆頭」「あまりの強さから“絶望”の異名を持つ」程度の知識しかなかった。
それが大会期間中に禁止薬物が検出されて以降、空気が一変。スポーツ仲裁裁判所(CAS)の裁定で出場が許可されたことで凄まじい逆風が吹く事態に。
だが、この時点でも僕は女子フィギュアを観ようとは思わず。「な〜んかおもろいことになっとんな」程度の気持ちで眺めていたのみである。
で、初日のショートプログラムの動画が公開されていたので、じゃあ試しに観てみますかと。
「NHK | 1位はカミラ・ワリエワ | フィギュアスケート女子シングルショートプログラム | 北京オリンピック」
何だコイツ……。
縦横無尽にリンクを動き回るワリエワの姿にあっという間に釘付けになってしまった。
中でも目を引いたのが四肢の先の先まで神経が行き届いた細やかさ。
長い手足とスラっとした体型、全体的なしなやかさはもちろん、指の先、足の先までいっさい隙のないスケーティングは完全に異次元。
フワッと着氷する姿からは体重をほとんど感じさせず、それどころか接地の瞬間に減速するような感覚さえ覚える。
僕の知っている女子フィギュアとはまったくの別物というか、最初のジャンプの失敗すらも映えるほど群を抜いていた。
いや、マジか。
カミラ・ワリエワってこんなにすげえのか。
なるほどねえ。確かにこれは「絶望」だわ。
間違いない。
この瞬間、ドーピング云々、出場の是非といった諸々の問題は完全に“些細な出来事”に。
初めて目にしたワリエワのインパクトはそれほど凄まじかった。
2014年ソチオリンピックで止まっている女子フィギュア。あれほど優雅だと思っていた演技がもっさりしていて洗練さとはほど遠い
僕自身、女子フィギュアについては2014年のソチオリンピックで止まっている。
もっと言うと、しっかり観ていたと言えるのは荒川静香や安藤美姫、浅田真央らが活躍した2006年トリノ、2010年バンクーバーくらいまで。
なので、僕の中での女子フィギュアは
・男子に比べて優雅
・女性特有の柔らかさがある
のが特徴。その中に浅田真央や安藤美姫のように力強いジャンプを駆使する選手がポツポツいるといった印象である。
ところが今回の北京五輪は……。
これまで目にしたことがないほどのスピード感に加え、そのスピードの中でどの選手も長い手足を自在に操る。
ROCの選手に限っては、3人とも4回転を標準搭載している。
改めて2010年までの映像を観ると、あれほど優雅だと思っていたはずの演技が全体的にもっさりしていて洗練さとはほど遠い。
表現力の高さ、力強さは僕の知っている女子フィギュアとはまったくの別物。
極端な話、2010年バンクーバーでのキム・ヨナの演技ですらギリ許容範囲かな? というくらいの違いがある。
負けて「すみません」と謝罪するスポーツ選手に「謝るべきではない」と指摘することについて
シェルバコワの完成度、トゥルソワのジャンプに開いた口が塞がらない。そのすべてを“絶望”が黒く埋め尽くすと思っていたら…
金メダルのアンナ・シェルバコワはキム・ヨナ以上の表現力+4回転を標準装備、銀メダルのアレクサンドラ・トゥルソワは安藤美姫がやっとのことで成功させた4回転をプログラムに5本組み込む。
浅田真央が史上初めてショートプログラムでトリプルアクセルを2回成功させたのが2006年。
隔世の感ではないが、いつの間にかここまでレベルが上がった女子フィギュアに開いた口が塞がらない笑
は? 4回転を5本!?
どこの世界のお話ですか?
みたいな。
そんな会心の演技を連発するROC勢だが、それでも僕の中ではワリエワのインパクトには及ばなかったことを報告しておく。
異様な空気の中、最終滑走のリンクに降り立つワリエワ。
この日の衣装は黒いドレスに赤い手袋。四肢の先端まで神経が行き届いた表現力を最大化する意図が感じ取れる。
そしていよいよ演技スタート。
全世界が固唾を飲んで見守る中、場内を“絶望”が黒く埋め尽くし……。
と思ったら、5本のジャンプ失敗により4位に沈むという。
世界中から向けられる敵意と困惑をものともせずにあっさり優勝→「“絶望”はやっぱり“絶望”でした」「コイツには誰も勝てねえよ」となるはずが、まさかここまでドラマティックな結末が待っているとは。
ワリエワの出場には否定的な意見が多かったようだが、そんなことは知ったこっちゃない。
女子フィギュアの異次元のレベルアップと大本命が敗れる波乱を同時に目撃できた事実にめちゃくちゃテンションが上がっている。
1秒も観てなかった五輪を女子フィギュアだけ観たんですが。
強化版安藤美姫みたいなヤツが4回転決めまくって、強化版キム・ヨナみたいなヤツが総合力でトップに立って。で、最後に絶望がすべてを黒く染めるのかと思ったら…。
2014ソチで時間が止まってる僕としてはこのレベルアップは尋常じゃない。
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) February 17, 2022
ロシア(ROC)の選手は演技が“黒い”。うまく言えないけど“黒い”
あとはアレですよね。
ロシア(ROC)の選手は演技が“黒い”よね。
表現力も技術もとんでもなくハイレベルなのは素人目にもわかるし、極限まで無駄を削ぎ落とした鋭さもひしひしと感じる。
かつて女子フィギュアに感じた優雅さやピースフルな穏やかさなどはいっさい存在しない。
ただ“黒い”。
僕の貧弱な語彙では適切な表現が見つからないのだが、とにかく“黒い”。
入れ替わりの早さが凄まじい。10台半ばでピークを迎える女子フィギュアはそこから低迷期に入る
今回女子フィギュアを観て印象に残ったのは、ロシア(ROC)選手の入れ替わりの早さである。
2018年平昌オリンピックで金に輝いたアリーナ・ザギトワ、銀に輝いたエフゲニア・メドベージェワは現在はどちらも第一線を退いている(引退したわけではない?)。
しかもザギトワに至ってはまだ19歳。平昌で金を獲得したのは現在のワリエワと同じ15歳である。
今大会も15歳のワリエワに加えてシェルバコワ17歳、トゥルソワ17歳といずれも10代半ば。
要するに女子フィギュアは10台半ばでピークがくる競技と言える。
実際、浅田真央が一番輝いていたのは実は2005年(15歳)のグランプリファイナルだし、安藤美姫が初めて4回転を成功させたのも2002年(15歳)のジュニアグランプリファイナル。
恐らくカミラ・ワリエワも今は何をしてもうまくいく状態。凄まじい万能感に満ちていると想像する。
だが、そこから年齢を重ねるにつれて(女性は特に)体型に変化が生じる。
身長が伸びて胸や下半身も大きくなり、身体全体のバランスも変わる。
高く飛ぶ、速く回るためには体重が軽い方が有利なのは明白。
ところが身体の成長とともにそれを支える筋力が必要になり、同時に負担も増える。幼少期からの蓄積が影響して怪我もしやすくなる。
メドベージェワも2019、2020年あたりから怪我に苦しんだとのこと。
#北京オリンピック の #フィギュア女子 の会場に、前回の年平昌大会でそれぞれ金と銀メダルに輝いたアリーナ・ザギトワとエフゲニア・メドベージェワの姿がある。
2人はワリエワら、後輩のROC選手たちにエールを送る。名勝負から4年。2人のいまを紹介する。https://t.co/O92b1bzJeH
— The Asahi Shimbun GLOBE+ (@asahi_globe) February 17, 2022
正直、10代半ばでピークを迎えた直後に低迷期がくるのは仕方ないのだと思う。
新陳代謝が激しすぎて2度目の全盛期を待つ土壌がない。低迷期を乗り越えてもう一度ピークを引っ張り出すのも女子フィギュアの醍醐味なんだけどね
そして、そういった低迷期を乗り越えることも女子フィギュアの醍醐味だと思っている。
変わってしまった体型と向き合い、崩れたバランスを取り戻す。
年齢を重ねることでメンタルを安定させ、若い頃にはなかった表現力、技術の高さを身につけ再び全盛期を引っ張り出す。
それをやってのけたのが2006年トリノの荒川静香だったり今回の坂本花織だったりするわけで。
ただ、残念なことに今のロシアには第2の全盛期を待つ土壌がない。
次から次へと有望な若手が出てくるのでどれだけ実績があっても世代交代の波は容赦なく襲ってくる。少し調子を落とすだけでもあっという間に代表資格を失ってしまう。
一方でオリンピックでメダルを獲得した選手には破格の報酬が支払われるとか。そういう意味でも、一度脱落した選手がもう一度這い上がのは困難を極めるのだと想像する。
女子フィギュアが4回転だけの競技なんて100%嘘だから。フィギュアのシニア年齢引き下げによる影響。競技人口が減って競技レベルの向上スピードも落ちるんじゃない?
ワリエワにとっては最初で最後のオリンピック。辞退する選択肢なんか存在しなかったんだよ
ロシアの育成システムがどうなっているかは不明だが、こういう記事を読むと国としても上がり目のないベテランにリソースを割くより若手強化に専念した方がお得と考えているのかもしれない。
「なぜあきらめた?」 悲嘆のワリエワにコーチが詰問https://t.co/vUwvhRn2W2
— AFPBB News (@afpbbcom) February 18, 2022
10代選手を「使い捨て」? フィギュア、ワリエワ騒動で年齢に焦点https://t.co/gLkJsPQChS
— AFPBB News (@afpbbcom) February 18, 2022
つまり、カミラ・ワリエワにとっては今回が最初で最後のオリンピック。
「国家ぐるみでドーピングを推進していたロシアの闇を15歳の少女に背負わせた」
「今回は出場させるべきではなかった」
「周りの大人が少女の将来を潰した」
フリースタイルでのワリエワの痛々しい姿を受けて出場を許可したCASやROCのチームに批判が集まったようだが、実際はそんな単純な話ではない。
たった一度のオリンピックに幼少期からすべてを捧げてきたことを考えれば、「出場可」となった時点で辞退する選択肢などあり得ない。
少女の未来よりもメダル獲得が優先される構造上の問題が内在しているような気がする。
適当に言ったつもりだけど、これが案外間違いじゃなさそうなんですよね……。
ワリエワ16歳未満だからお薬検出されても出場OK意味わからなすぎワロタw
15歳の少女に十字架背負わせて〜とか以前に女子フィギュアって10代半ばで一度目のピークがくる競技だからな。ゴリゴリのトップアスリートですよ。
極論、冬季五輪に決め打ちで短期使い捨てのサイボーグ量産も可能じゃねえか笑
— 俺に出版とかマジ無理じゃね? (@Info_Frentopia) February 15, 2022
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