UFCが終わる? ロンダ・ラウジーの敗北はUFC終焉の序章。ダナ・ホワイトの天下、総合格闘技の時代が終わりを告げる日
ロンダ・ラウジーがホーリー・ホルムに負けた。
惜敗というレベルではなく完膚なきまでに負けた。
たとえリマッチが組まれたとしても、今のままではロンダは十中八九負ける。それくらいなすすべなく負けた。
秒殺女王ロンダ・ラウジー敗北。
この結果が与えた衝撃は大きく、数日たった今でもロンダ・ラウジーvsホーリー・ホルム戦について多くの人が語り続けている。
「至極?の対戦カード4試合発表! RIZIN出場選手発表!! アンディ・サワーvs長島☆自演乙☆雄一郎キター!!」
当然僕もこの試合には感動したし、一発でホーリー・ホルムのファンになってしまった。
ここ数年UFCへの興味が完全に薄れていた僕だが、今一度追いかけてみようと思うほど衝撃的な試合であった。
と同時に、嫌な予感が頭をよぎった。
この試合がきっかけで、UFCが凋落へと向かうかもしれない。ロンダ・ラウジーの敗北はUFC時代の終わりの始まりなのかもしれない。そう思えてしまったのである。
というわけで今回は「UFCが終わる? ロンダ・ラウジーの敗北はUFC終焉の序章。ダナ・ホワイトの天下、総合格闘技の時代が終わりを告げる日」と題して、先日のロンダ・ラウジーvsホーリー・ホルム戦がUFCの人気凋落のきっかけとなりうる可能性について書いていこうと思う。
あくまで推測の域を出ない話ではあるが、興味があればおつき合いいただければ幸いである。
フィジカルを活かしてグイグイ攻めるロンダ・ラウジー
ロンダ・ラウジーの必勝パターンは、試合開始直後からグイグイプレスをかけて金網を背負わせ、柔道技で強引に押し倒してからの腕十字。もしくはプレスをかけた状態からパンチの連打で秒殺KO。つまり、強烈なフィジカルで相手を圧倒して自らの土俵に引きずり込むファイトスタイルである。
「相手いるのか? クリス・サイボーグ姐さんがUFCデビュー戦で圧勝!!」
これまでは持ち前のフィジカルとスピード、前に出る圧力で相手を圧倒していたためにガバガバのディフェンスが表面化することがなかった。
ところが、今回のホーリー・ホルム戦ではフィジカルで圧倒することができず、中間距離でのディフェンスの甘さがモロに露呈したのである。
これで大体合っているだろうか。
先ほども申し上げたとおり、僕はここ何年もまともにUFCを観ていないので何とも言えないのだが。
「アンドレ・ベルトがロンダ・ラウジーのコーチに名乗り? 何か勘違いしてねえか?」
最強・退屈の安定王者ホーリー・ホルム
新チャンピオンであるホーリー・ホルム。この選手のチートっぷりは前回の記事で申し上げたとおりである。
「ロンダ・ラウジー失神KO負け!! ホーリー・ホルムが秒殺女王を完膚なきまでに叩きのめし、女子MMAの歴史を動かす」
打撃、フットワーク。そしてロンダ・ラウジーの圧力にも屈しないフィジカル。現状負ける姿がまったく想像できないほど、この選手のスペックは女子MMAの中では突出している。
今後ロンダ・ラウジーとのリマッチが組まれるのか、それともミーシャ・テイトを初めとしたさらなる挑戦者とのタイトルマッチに進むのかはわからないが、今のところ誰が相手でもまず負けることはないだろう。
だが、一つ断言できることがある。それは、今後行われるであろうホーリー・ホルムの防衛戦は確実につまらないということである。
ロンダ・ラウジーvsホーリー・ホルム戦があれだけエキサイティングだったのは、ひとえにロンダ・ラウジーだったからこそだ。
ロンダのフィジカルと勝ち気な性格があったからこそ、ホーリー・ホルムの鉄壁のディフェンスにも怯まずに前進できたのであって、他の選手なら近づくことすらできなかったはずである。
ハイキックで距離をとられ、飛び込んでもフットワークで軽くいなされる。ホルムがボクシングテクニックを披露するまでもなく、ロングレンジで削られ続けて大差判定負け。待っているのはそういう結末のみである。
「ホーリー・ホルムがシェフチェンコに負けちゃった…。やっぱりUFCにはロンダ様が必要だね!!」
UFC参戦以前のホルムの試合を観ると、ハイキック一発で相手を沈めている試合も見られる。だが、それはあくまで相手のレベルが低かったからに他ならない。
相手の隙をついて距離を詰めてハイキック一閃。レベルの低い相手であればそれも十分可能だろうが、相手がUFCのランカークラスとなればそうはいかない。あれだけモーションの大きな攻撃がヒットする確率はほぼないといっても過言ではない。
「ミーシャ・テイトがホーリー・ホルムに失神KO勝利で初タイトル奪還!!」
相手はホルムに近づくことができない。
ホルムは必殺のハイキックでKOすることができない。
必然的に遠い距離でのこう着状態が続き、試合は退屈なものになるのだ。
KO勝利もない。ピンチを迎えることもない。誰と戦っても似たような光景が繰り広げられる。
毎回、時間いっぱいを使って無難にやり過ごす試合運び。最悪の最強安定政権の誕生である。
競技レベルが向上するとともにドラマ性を失った総合格闘技
僕がUFCへの興味を失った一番の理由。それは単純に試合がつまらなくなったからである。
UFCにしろ四角いリングでのMMAにしろ、初期の総合格闘技は技術が稚拙な反面、異種格闘技戦特有のエキサイティングさがあった。何が起こるかわからない、次の展開が読めないワクワク感があったのだ。
だが競技レベルが成熟するにつれて勝つためのセオリーが構築され、初期のエキサイティングさは失われていった。
打撃を交えて相手を金網に押し付け、足をかけて引き倒す。
ガードポジションをとる相手にコツコツと打撃を落としながら関節へ移行するチャンスをうかがう。
この状態が試合の4割前後を占めるのだから観ている側としてはたまらない。一発逆転への期待感も薄く、大体の結末が読めてしまう。何より2人の人間が寝転がってもみ合う姿は退屈極まりない。
競技レベルの成熟とは、すなわちディフェンス技術の成熟である。
ディフェンス技術が向上するということは、それだけ一発大逆転の可能性が下がることを意味する。どんでん返しや番狂わせは極端に少なくなり、はっきり言ってしまえば、その競技自体が退屈なものになるのである。
こう着状態の中で行われる高度な駆け引きを楽しめるようになればまた違ってくるのだろうが、残念ながら僕はその境地までたどり着くことはできなかった。
どの試合も似たり寄ったりで何のドラマ性も感じられない。結果的にUFC観戦への興味が薄れていったのである。
ミルコの出現によって技術の進化が加速した2000年代
2000年代前半、日本格闘技界が世界の中心だった頃、PRIDEにミルコ・クロコップが参戦したことによってMMAの競技レベルは加速度的に向上した。
打撃に特化したタイプのミルコがタックルやグランドでの攻防に対応することで、立ち技での優位性を存分に発揮した。
そして、そのミルコを打撃以外のすべての局面で上回ったエメリヤー・エンコ・ヒョードルがミルコを見事に封殺してみせたのである。
唯一遅れをとった打撃においても、ある程度勝負できるくらいのスキルは持ち合わせていた。
ミルコがハイキックに依存し過ぎた部分はあるが、あのミルコの打撃をかいくぐってグランド勝負に持ち込むことができたことはヒョードルの最大の勝因といえるだろう。
つまりMMAの技術を習得した打撃系の選手が、フィジカルと打撃技術を高いレベルで兼ね備えた総合選手に敗れた。そういう試合だったのである。
この試合以降、MMAの競技レベルの進化は一気に加速する。
打撃系のミルコを総合力で上回ったヒョードルはその後、長きに渡って最強の座に君臨する。だが、迎えた2010年。ついにファブリシオ・ヴェウドゥムに敗戦を喫する。
そして続くアントニオ・シウバにもTKO負けし、初の連敗を喫したことで引退へ向かうのだが、これこそがまさにヒョードルを超えるヒョードルが出現した瞬間である。
圧倒的な総合力で王座に君臨したヒョードルをさらなる総合力で上回り、一時代を終わらせたのである。
もはや初期の異種格闘技戦の体はどこにもなく、MMAという一つの競技が確立されたのがこの頃だ。
そして、僕がUFCや旧ストライク・フォースを観なくなったのもちょうどこの時期である。
高度に成熟した技術レベルは勝負にドラマ性を失わせ、観る者を退屈にさせる。
「ヒョードル連敗」という大ニュースを聞いてもあまり心が動かなくなっていたのも、僕自身が試合自体をおもしろいと感じなくなっていたからだ。
セオリー通りの退屈なMMAの完成?
今回のロンダ・ラウジーの敗北。
これはまさしく、PRIDEにおけるミルコ・クロコップの出現と同じ意味を持つのではないかと思っている。
打撃に特化したホーリー・ホルムという選手がMMAの技術に対応することで、自分の得意分野を活かした戦い方でオクタゴンを席巻する。
だが、ほどなくして総合力でホルムを上回るヒョードルのようなトータルファイターが現れるだろう。
それがロンダ・ラウジーなのか、または別の誰かになるのかはわからないが、いずれはホルムを倒す選手が現れるはずだ。
そうなれば女子MMAの技術レベルは加速度的に向上する。いずれはヒョードルを超えるヒョードルが現れたように、総合力を超える総合力を兼ね備えた選手の台頭によって最強の称号は次々と移り変わっていくのだろう。
ここまでくればあとはお察しの通りである。ハイレベルかつ退屈なセオリー通りのMMAの完成だ。
ロンダ・ラウジー敗北でUFC凋落のサイは投げられた
7万人規模のイベントのメインを女子ファイターがつとめる。これは本当にすごいことだ。
すごいことではあるが、裏を返せばそれだけ男子の試合がつまらないという意味でもある。
現在のUFCは技術形態が高度に発達し過ぎた結果、エキサイティングさを失い観る者を退屈へといざなう皮肉、女子に頼るしかない状況を生み出している。
ロンダ・ラウジーの試合は確かに稚拙だ。だが、彼女の試合には男子MMAが失った異種格闘技戦の高揚感が残っている。
ドラマ性が失われた試合の羅列の中、ひときわ光る女子MMA。その中心にいたのがロンダ・ラウジーだったのである。
だが今回、ホーリー・ホルムがロンダに圧勝したことで、女子MMAの技術レベルは一足飛びの進化を見せるだろう。
UFCの代表であるダナ・ホワイトが、今回のロンダ・ラウジーの敗北にひどく落胆していたと聞く。それが自身の運営するUFC時代の終焉を予感した上での落胆であるなら、あながち間違いではないのかもしれない。
ダナ・ホワイトにとっても、UFC全体にとってもまだまだロンダ・ラウジーには王座に君臨していてもらわなくてはならなかったのだ。
「モデルボクサー高野人母美KO負け!! 今後のボクシング界のために高野人母美の後継者を大至急探すんだ!!」
UFC凋落のカウントダウンが本当にスタートするのはホーリー・ホルムが誰かに負けたときだろう。だが、今回の試合によって終焉へのサイは確実に投げられたのである。
延命措置として一番手っ取り早いのはホルムを干すことだが、さすがにそれをやってしまうとファンからの猛烈な批判は避けられない。最強を自認する格闘技団体としての信用にも関わる。今後のダナ・ホワイトの手腕にも大いに注目である。
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