15R時代との比較。12Rに短縮されたことでボクシングは変わったの? 日本にはホームアドバンテージがあるの? スタッツ遊び第2弾
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先日「スタッツをほじくり返してボクシングの都市伝説を検証する」と題して、ボクシングの過去のデータを漁ってあれこれと検証してみたのだが、それが思った以上に楽しかった。
しかもそれなりに反響もあり、完全に自己満のつもりだったものが、意外と興味を持ってくれる方が多いことに驚いた次第である。
「スタッツをほじくり返してボクシングの都市伝説を検証する。12Rはみんながんばるから11Rにがんばるべき? 初回は身体が硬い?」
なので、今回は調子に乗ってその第2弾。
世界タイトルマッチが15Rだった頃のKO率やKOラウンドの推移を現在と比較し、ラウンド数が15R→12Rに短縮されたことでどんな変化があったのかを適当に検証してみたい。
また、2000〜2019年の間に日本で開催された世界タイトルマッチの結果を引っ張り出して「日本にはホームアドバンテージが存在するのか」「1年のうち、世界タイトルマッチが多く行われているのは何月か」についても検証していくことにする。
なお、例によって僕がBoxrecから手作業で抜粋したデータなので、正確性には疑問符がつくことをお伝えしておく。
15R制の世界タイトルマッチの判定とKOの割合。12R制と比較するとおもしろい
ではまず、世界タイトルマッチが15Rだった頃の団体ごとの判定とKOの割合から。
ちなみにだが、今回調べたのはWBAとWBCのみ。
ボクシングの世界タイトルマッチが12R制となったのがだいたい1987〜1988年あたりで、それ以前はIBFとWBOはまだ団体自体が存在しない時期(してたのかもしれないけど、Boxrec上では世界タイトルマッチは開催されておらず)。
また、この年代はボクシングの過渡期だったようで、各地で12Rと15Rの世界タイトルマッチが混在していた。なので、あえてその時期は外し、完全に15Rのみだった時期からのピックアップとなっている。
2団体を総計したものがこちら。
そして、前回掲載した2010〜2019年までの団体ごとの判定とKOの割合が下記。
なるほど。
12R制の世界タイトルマッチの判定決着率が約50%なのに対し、15R時代は43.1%。WBCに至っては41.5%と、最近の10年に比べてかなりKO決着の確率が高かったことがわかる。
「日本がアジア周辺国のおいしい出稼ぎ先としてさらに確立されればええね。OPBF加盟国選手が日本王座に挑戦できるんだってさ」
続いて、ラウンドごとのKO決着の推移。
2団体を総計したものが下記。
例によって、2010〜2019年のものと比較してみる。
いや、これはちょっとおもしろい。
現在との比較はもちろんだが、WBAとWBCにもかなりの違いが見られる。
両団体とも1RはKO決着の確率が低く、中盤にかけて徐々に上昇。12Rを境に下降し、最終15Rがもっとも低くなる。
だが、11、12R以外は比較的横ばいなWBCに対し、WBAはかなり波が激しい。特に2、7、12Rと、1試合の中で3回波がくるというのが……。
現在の12R制では9RがKO決着のピークだったが、15R制時代のWBAは1試合の中でピークが3度訪れる。
また、WBCに関してはWBAよりもKO決着率が約3%ほど高く、どのラウンドもまんべんなくKOが生まれやすい傾向。しかも、負傷KOや反則等のノーコンテストで省いた試合がWBAよりもかなり多く、よりアグレッシブに打ち合う団体だったと言えるのかもしれない。
もう一度15R制と12R制を比較すると、
15R制のKO決着のピークが12Rなのに対し、12R制は9R。ラウンドが減少した分だけ勝負どころも前倒しになった感じか。
「「山中慎介バンタム級トーナメント(仮)」開催決定。結構大変そうな大会だけど、優勝賞金100万円か…」
15R制時代はKO決着率が高く、WBCはWBAに比べてアグレッシブな打ち合いが多かった?
以上を踏まえた上での結論は、
・15R制時代は12R制と比べてKO決着率が約6%ほど高い
・特にWBCのKO決着率が高く、全体の60%近くを占める
・WBAはWBCよりもKO決着率自体は低いが、KOのピークが3度ある
・それに対し、WBCのKO決着のピークは11、12R
・WBAに比べてWBCの方がアグレッシブだった可能性?
・両団体とも初回と最終15RにはKO決着は起こりにくい
といった感じか。
1Rから徐々にKO決着率が上昇し、後半にピークを迎えて低下する流れは12R制と同様だが、両団体で特徴がかなり異なる。
KO決着が60%近くを占めるWBCに対し、WBAは試合の流れが行き来しやすい。たとえ前半3Rでリードを許しても、その後に逆転のチャンスが2度ほど訪れる。12Rまでに流れを変えることができれば挽回は十分可能。10R時点でリードを許した場合、約85%の確率で負け確定の12R制に比べてドラマチックな幕切れも多かったのではないか。
「岡田博喜にとってのベルトランは最悪な相手だったな。9RTKO負けで初敗戦。経験値と慣れと強者のメンタル」
日本にはホームアドバンテージはあるの? 月別の開催数と勝敗、勝率を振り返る。勝ちたきゃ12月に起用される選手になれ
次は「日本にはホームアドバンテージがあるのか」について。
ここでは2000〜2019年に日本で開催された世界タイトルマッチの結果(勝敗、勝率)を月別に引っ張り出し、検証していくことにする。
なお開催数と勝敗に齟齬があるのは、今回はあくまで日本人(日本のジム所属)選手vs海外から招聘した選手の戦績を抜粋しているため。つまり、先日の田中恒成vs田口良一戦や2012年の井岡一翔vs八重樫東戦など、日本人同士の世界戦は勝敗に含まれていない。
これを見ると、日本開催における全体の勝率が60.1%。はっきりとホームアドバンテージが存在するとまではいかなさそうである。
朝倉未来「ボクシングの12Rは覚悟がいる」。でも12R制の醍醐味ってのも間違いなくあるよね。井岡一翔の試合運びは感動的ですらある
月別の開催数とホーム/アウェイの勝率については一目瞭然。
12月の60戦(41勝10敗1分)勝率78.8%がダントツで、そこから4月の36戦(23勝9敗)勝率71.3%、9月の35戦(18勝10敗2分)勝率60.0%と続く。
逆にもっとも開催数が少なく勝率も悪い月は6月の14戦(3勝8敗)勝率27.3%。次が2月の12戦(5勝5敗1分)勝率45.5%、1月の23戦(10勝12敗)勝率45.5%となっている。
恐らくだが、これは人気選手かそうでないかの違いだと思われる。
テレビ中継が入る世界タイトルマッチは概ねG.W、9月、年末を中心に開催され、当然視聴率が期待できる人気選手が起用される。特に年末は各局が視聴率競争を繰り広げる時期なので、テレビ局としては実力・人気を兼ね備えた選手がド派手に勝つことが望ましい。
逆に2月や6月は世界戦の開催自体が珍しく、言葉は悪いがあまり知名度、期待値の高くない選手の試合になることが多いのではないか。
人気選手の試合はG.W、9月、年末に集中し、知名度、期待値の低い選手は谷間の時期に起用される。それが上記の月別開催数、勝率の違いとなって表れたのだと想像する。
「WBSSの資金難にはビックリしたな。てっきり大財閥の御曹司が道楽で金出してるもんだとばかり……」
つまり、
・日本はそこまでホームアドバンテージがキツくはない(個別の試合については別)
・1、2、6、7月の世界戦は期待値が高くない選手が出場する可能性(悪気はないです。すみません)
・逆に4、5、9、12月は実力・人気を兼ね備えた有名選手に出会える(かも)
・特に年末の世界戦はド派手な勝利が期待できる(かも)
・世界タイトルマッチで勝ちたければ、とにかく12月に起用される選手になれ
少々乱暴だが、結論としてはこういうことなのかなと。
「サッカースタジアムのアクセスの悪さは客足に影響するのか検証してみる。人生初のサッカー(J2)観戦はクソ微妙だった」
トラッキングデータによる運動量、位置取りのスタッツがわかれば最高。リングの広さや温度・湿度との比較もできるよね
しかし、今回もめちゃくちゃ疲れたww
Boxrecは確かに有能なのだが、使い勝手がいいか? と聞かれればまったくそんなことはない。もう少し条件別でソートできたり、csv形式でダウンロードできたりといった機能があればいいのだが……。
文章を書く時間よりもネタ集めの時間の方が4倍くらい長いというか、勝手に初めておいてアレだがこれは人を雇ってお願いするレベルの作業ww
自分は「あのデータが欲しい」「このスタッツはないの?」と好き勝手に喚いて、おいしいところだけいただくのが理想()かな。
「井岡一翔がいれば大丈夫。4階級制覇に向けて大貴ジムで日本復帰。アストン・パリクテとの決定戦か」
そして前回の繰り返しになるが、個人的にボクシングのスタッツはもっと充実してほしい。こういうマニアックな数字遊びができるのもスポーツ観戦の醍醐味だと思っているので。
理想を言うなら、以前にも申し上げたように「トラッキングデータによる運動量や位置取り」のスタッツがあれば最高かなと。
サッカーやラグビーでは各選手の1試合での走行距離がわかったり、バスケではシュートを打った位置が分布図で示されたりと、かなり詳細なスタッツが入手できる。
これをボクシングに応用できれば、かなりおもしろいのではないか。
たとえば「足を使う」と言われる選手と「インファイトが得意」な選手では実際にはどちらが多く動いているのか。
ギジェルモ・リゴンドーのように「カウンターの脅威を植え付けるタイプのアウトボクサー」は、案外1試合の運動量は少ないのではないか? とか。
また、有効打が発生した際の両者の位置関係がわかれば、その選手の得意な間合い等を具体的に言語化することも可能になる(はず)。「長く現役を続けられる要因」など、これまで抽象的なイメージや脳内でのシミュレーションに頼っていたものが一気に数値化される(はず)。
「リゴンドー復帰戦勝利!! ジョバンニ・デルガドを圧倒して1RKO。コイツいつも復帰してんな」
それ以外外にも、リングの広さと運動量の相関関係や会場の温度・湿度による影響など。いろいろと活用できる部分は多いと思っている。
まあ、実現するのは相当難しいんだろうけどね。
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