「モチベーション」とか「メンタル」とかホント好きだよな。笑わせんなよ。内山は実力でコラレスに負けたんだよ
内山高志敗北の衝撃が止まない。
大田区総合体育館で生観戦してから数日経つものの、いまだに各所で敗因や今後についての話題が尽きない。
中には内山の敗北が受け入れられない、ショックで仕事が手につかないという方もいるようである。
「ジェスレル・コラレスが内山を粉砕!! 暫定王者がまさかのアップセット!!」
ボクシングでこれほど大きな反響が起きるのは本当に珍しい。それくらいあの敗戦はショッキングな出来事だったし、内山高志という選手がファンからも同業者からも尊敬される存在だったことがうかがえる。
「【再戦展望】内山vsコラレス大みそか決戦。苦戦必須? 引退を賭けた大一番のリング」
敗因が「モチベーションの低下」だ? そりゃ違うだろ
内山高志敗北から数日。
僕にとってもあの日の出来事はかなり衝撃的で、あれ以来さまざまなコラムや記事を読み、いろいろな方の意見を見聞きした。
みな一様に「まさか内山高志が負けるとは」「勝つと思っていた」という意見で、今回の内山高志の敗戦がプロアマ問わずとんでもない出来事だったことを感じさせてくれた。
「井上尚弥の強さ、すごさを考える。カルモナ戦の予想? KO勝ちでいいんじゃないの?」
ただ、1つ気になったことがある。
それは、敗戦の原因が「内山のモチベーション」であり、内山高志という稀代の名選手にふさわしい舞台を用意できなかったワタナベジムにあるという意見が多いことである。
内山の所属するワタナベジムが内山の望むビッグマッチを2度もフイにした。ニコラス・ウォータース、ハビエル・フォルトゥナなど、海外で名の通った選手と試合がしたいという内山の希望を叶えてあげられなかった。
もっというと、過去にはマイキー・ガルシアやガンボアなど。期待させては落胆させるを繰り返してきたことで、本人のモチベーションを下げてしまった。そのせいで今回のような波乱が起きた。そういう意見である。
「内山国内防衛ワロタ _( ̄▽ ̄)ノ彡 だから言っただろww 大田区総合体育館を想定しておけと」
僕はこの「モチベーション」とやらに敗因を求める風潮がどうしても納得いかないのである。
ファンが言っているだけなら全然いい。誰も彼もが好き勝手にいくらでも主観を述べればいいと思っている。
とあるプロボクサーの方が「負けの言い訳をモチベーションにしてるようじゃ日本ボクシング界に未来はない」と憤っているのを見かけたが、正直今は日本ボクシング界の未来などどうでもいい。
だが、記事を書いて金銭を得る立場の人間は別だ。インターネットの有名サイトに掲載されるような記事でもそういった内容が多いことに心底驚いたのである。
「村田が香港でベドロソと対戦!! 世界戦に突き進む村田のプロ10戦目を予想する」
精神論で勝敗が決するのはあくまで実力が拮抗しているとき
日本人は「モチベーション」や「メンタル」という言葉が本当に好きだ。
「チームプレー」「組織力」といった連帯責任的なニュアンスも大好きだが、それに負けず劣らず「モチベーション」「メンタル」といった精神論の類も好きである。
僕は再三申し上げているように、スポーツにおいてメンタルやモチベーションが与える影響は二次的なものに過ぎないと思っている。
あくまでも勝敗を分けるのは実力。試合の時点での両者、両チームの実力こそが勝敗を分ける唯一最大の要因であり、メンタルやモチベーションなどといったものが介入する余地はない。当たり前の話である。
「井上がカルモナに大差判定で勝利!! 意外と苦戦? 拳を痛めて攻撃力が半減」
強いていうなら両者の実力が拮抗したときにプラスアルファとなるもの。最後の一押しとしてのほんの少しの差。それがメンタルであり、モチベーションである。
逆に言うと、実力差のある相手に高いモチベーションで挑んでも実力差どおりの結果しか出ないし、どれだけメンタルが強かろうがフィジカルで負けていては話にならない。
「田中恒成vsモイセス・フエンテス予想! 実は一番楽しみな試合。大みそかに試合が組みにくいだって?」
結局は実力。
メンタルやモチベーションが重要でないとは言わない。だが、それはあくまでもプラスアルファの要素に過ぎない。
パッと思いつくもので、メンタルやモチベーションの差で勝敗が決したと言えるのは直近ではスーパーラグビーのサンウルブズvsチーターズ戦だろう。
「サンウルブズ勝利!! やればできるじゃねえかww ジャガーズに逆転勝ち」
あの試合は「勝ちたい」というサンウルブズの気持ちが、疲弊して足が止まったチーターズを上回った典型的な試合だと思う。
戦力的には互角かやや相手が上。だが、コンディション的に100%ではなかったチーターズと、勝つチャンスはここしかないと照準を合わせたサンウルブズ。ホームというアドバンテージも活かして相手を鼻差でまくっての見事な逆転勝利である。
「内山進退は五分五分←これ、現役続行するパターンだ。大みそかはコラレスと再戦してるから落ち着け」
ボクシングで言うなら、有名どころでは辰吉丈一郎vs薬師寺保栄戦だろう。
試合後半、ダメージが蓄積してポイント的にも不利な状況に追い込まれた辰吉が、不屈の闘志で盛り返した試合である。
通常は失速する後半に、逆にペースを上げて盛り返してみせた辰吉の鋼鉄のメンタル。
そして、その辰吉に一歩も引かず打ち合いを演じた薬師寺。あのチャンピオンの意地こそが、この試合を歴史に残る名試合に昇華させたのである。
本来、薬師寺は打ち合う必要性などなかったのである。リーチ差を活かしてアウトボックスしていれば無難に勝てる状況だったのである。
勝利の最善手を捨てて打ち合いに応じた。その姿に視聴者は心を震わされたのである。それが正解かどうかは置いておいて。
ああいう試合こそが「モチベーション」や「メンタル」という言葉を使うことが許される試合なのではないだろうか。
つまり、今回のようなコラレスのワンサイドゲームに「モチベーション」や「メンタル」などという言葉を使ってはいけない。
もちろん一因ではあるかもしれないが、大きな理由の1つなどとは絶対に言ってはいけないのである。
実力的にコラレスが内山より上だった。
誇張でも何でもなく、ただそれだけである。
「八重樫の試合にイラつく…。テクアペトラ程度に激闘王って、ただの泥試合だろ」
よく聞くのが、思い入れが強過ぎて選手の実力を過大評価してしまうという現象。
たとえばプロ野球が好きな人が、好きが高じて2軍の試合にまで足を運ぶようになる。そして、応援している選手に対する思い入れが強過ぎるあまり、実力を見誤るのだという。最終的に「なぜこの選手を1軍で使わないんだ」と首脳陣批判を始めるたちの悪いファンに変貌するのだそうだ。
「内山再戦でコラレスに惜敗!! 2-1の判定でリベンジ失敗で引退か?」
あまり無責任なことは言えないのだが、僕は格闘技界にはこの現象がかなり多いのではないかと思っている。
応援する対象が個人であるために、どうしてもファンと選手の距離は近くなりやすい。特定の選手への思い入れが強くなり過ぎて、結果的に目測を誤る。そういう人が多いように思えるのだ。
そして、プロのライターの中にも気づかないうちにその状態に陥っている人がいるのではないかとも思うのである。
もちろんあくまで僕の印象なので、めったなことは言えないのだが。
コラレスは内山対策を練りに練り、一世一代の勝負を賭けてきた
コラレスの過去の試合を観れば、コラレスが左のカウンターが得意なことはわかるはずだ。あの1度目のダウンを奪ったカウンターが事故などではないことは明白である。
「内山vsコラレスを予想する!! 4月27日の大田区総合体育館でトリプル世界戦開催!」
しかも、これはいろいろな記事を読んで知ったのだが、あの試合でコラレスが自分から積極的に攻めたのはどうやら作戦だったようである。
コラレス陣営は内山の過去の試合の映像を山ほど見て、研究に研究を重ねていたのだそうだ。恐らくその過程で内山の数少ない欠点に気づいたのだろう。
内山がパンチを出した後にやや身体が伸びきる瞬間があること、突進系の選手を持て余すこと。その2つが狙い目であると感じたのだ。
そして、そこに自分の身体能力とスピードを交えて初回から内山を翻弄する。こういう試合プランを立てたのだと思う。
「フォルトゥナ陥落!! イキった末にソーサの左フックを被弾してKO負け」
試合前のゴタゴタもあり、僕はてっきりコラレスは体力的に厳しいのだと思っていた。そのため、一か八かの特攻しか選択肢はなかったのだと。
だが、そうではなかった。あの積極的な攻めはコラレスが周到に準備してきた作戦だったのである。内山の強打を十分理解した上で、勇気を持って踏み込んだのである。そして、準備に準備を重ねて挑んだ一世一代の大勝負に勝ったのである。
繰り返しになるが、僕はこの試合の結果を「モチベーションの低下」などというフワフワしたものに求める風潮がどうしても納得できない。
というより、勝敗の原因をコラレスの実力や周到な準備ではなく、内山側に探そうとする姿勢が理解できない。
何だ「戦う理由」って。
しょーもないにもほどがある。
「ボンバー三浦vsサリドキター!! 好戦的インファイター対決がアメリカで実現。バルガス戦を上回る激闘に期待感」
あくまで実力で内山は負けた。あの日のコラレスが内山の上をいっていた
どうしても内山側に敗因を求めたいのであれば、僕の意見としては前回の記事で申し上げたとおりである。
「内山vsコラレスの敗因? 経験知不足、国内専門王者の弊害が一番大きいんじゃないかな?」
・コラレスのレンジの長さと踏み込みの鋭さに対応できなかった
・予想以上にスピードがあり、慣れる前に効かされてしまった
・野性的な当て勘と鋭い左のカウンターに対応できなかった
・国内のみでキャリアを積んできたため、コラレスのような身体能力系との対戦経験が皆無だった
そして、これはTwitterのフォロワーさんがおっしゃっていたのだが、内山がピンチの際の切り抜け方を知らなかったというのも大きいと思う。
これまでの内山はよくも悪くも圧倒的な強さを見せつけてきた。11連続防衛という驚異的な記録を打ち立てながら、ピンチらしいピンチを迎えたことがない。つまり、あれだけ追い込まれた場面での対処法を知らなかったのである。
それは「やり返そうと思って前に出た」という内山のコメントからも明白だ。自分の状態を把握し、最適なエスケープの方法を判断する力も養われていなかったのである。そもそもクリンチの練習自体が不足していたとも考えられる。
そういった諸々の要因を総合計して、内山は実力でコラレスに負けたのだ。
対策を練って再戦すれば勝てるかもしれない。
本来は10回やれば8回は勝てた相手なのかもしれない。
だが、2016年4月27日の大田区総合体育館で対峙したあの時点では、内山高志はジェスレル・コラレスに劣っていたのである。
そこにモチベーションやメンタルなどという曖昧な要素の入る余地はない。
ちなみに「準備を怠ってしまったことこそがモチベーションの低下だ」というのであれば、僕はもうお手上げだ。
それこそ、体重超過をやらかしたコラレスに内山が放ったひと言をお贈りするしかなくなる。
「ボクサーとしての資格はない」
まあ、ここ数ヶ月内山の動向にかなり注目していた手前、僕自身もかなり内山に思い入れが強くなったことは否定しません。そのせいか、やや過激な文章になってしまいました。
「これが内山高志の進む道? 日本の至宝が海外進出するためのファイナルアンサー」
余談ですが、僕は辰吉丈一郎vs薬師寺保栄戦をリアルタイムで観てないっす。
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