ボクシングのクラブオーナー制度が廃止されたあとの世界線(仮)。ジュニア世代から強化費をジャブジャブかけて育成しなきゃ勝てない競技化が一気に加速する?
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先日「AERA dot.」に下記の記事が掲載され、ボクシング界隈がちょろっとざわついた。
年収300万円のボクシング王者・吉野修一郎 6度防衛しても稼げない不思議 https://t.co/vsOs2fxGqV #AERAdot #週刊朝日 #AERA
— AERA dot. (アエラドット) (@dot_asahi_pub) September 30, 2020
日本王座を6度防衛中のアジア3冠王者・吉野修一郎選手についての記事。
現在13戦全勝10KOで東洋圏では無双を続ける日本のトップ選手でも競技の収入だけでは生活が楽にならないという内容で、関係者やファンの間からはそれなりに賛否両論が聞かれた。
これについてはここでどうということはないのだが、同時にふと思ったのが、ボクシングの「クラブオーナー制度」を廃止したらどうなるの? という話。
「クラブオーナー制度」とは、ボクシングジムの会長がプロモーターを兼ね、選手はそのジムに所属するトレーナーに技術を教わりマネージャーにマッチメークを任せる。すべての選手がJBCに加盟するジムに所属していることが前提の三位一体? の制度。
一方、欧米などではプロモーターとマネージャーが完全に隔てられた「マネージャー制度」が主流となっており、ジムはあくまで練習場所でしかない。選手はトレーナーやマネージャーと個人契約を結び、練習場所となるジムも自由に選択することができる。
「マネージャーやプロモーター、日本と諸外国で異なる制度 〜ボクシング基礎講座〜 仕事の役割を考えてみよう」
これに関してもどちらがいいか悪いかをここで議論する気はないのだが、とにかく日本と欧米をはじめとする諸外国ではジム制度に大きな違いがある。
聞いた話だと、日本のボクシング界の「クラブオーナー制度」は諸外国からはかなり異質に見えるらしい。
ファンの間でも
「日本はなぜこんなバカな制度を続けているんだ」
「さっさとマネージャー制度に切り替えた方がいい」
「クラブオーナー制度に限界がきている」
という意見をちょくちょく耳にするが、じゃあ実際にクラブオーナー制度が廃止されたらどんな世界が待っているの? 本当に今よりハッピーになれるの?
その辺の話を、他競技を例に挙げつつ考えてみようと。
まあ、要するに単なる僕の興味でしかないわけですが。
テニス
ボクシングのクラブオーナー制度を廃止した先に待つ世界線として、まず最初に思いついたのがテニス。
錦織圭や大坂なおみなど、現在世界でもトップクラスの実力を持つ日本人選手が活躍している。
だが、2017年にはかつてのジュニア有力選手が八百長問題でテニス界から永久追放されたりと、ランキング下位選手の生活の苦しさも浮き彫りになっている。
[おすすめ]テニス界残酷物語、八百長の背景に下位選手の厳しい生活 – SPORTS セカンド・オピニオン https://t.co/E9kUzeoyrW
— ダイヤモンド・オンライン (@dol_editors) May 26, 2017
男子テニスの大会には7つのグレードがあり、最下層の大会ではたとえ優勝しても賞金は20~30万円程度。遠征費(宿泊代、交通費、食費など)は当然自腹で、練習場所の確保や大会のエントリーまですべて自分でこなす必要がある。
年収24億円とも言われる錦織圭を始め、トップ選手は報酬も天井知らずな半面、世界ランク100位以内に入らないと十分な収入が得られない厳しい世界であるとのこと。
そして、そこまで上り詰めるには幼少期から英才教育を受ける必要があり、その費用もバカにならない。
錦織圭は数々の有名選手を輩出した名門「IMGアカデミー」出身だが、日本からそこに送られる子どもは主に12~13歳までが対象となる。しかもトップの一握りに入らなければコーチ陣の本気の指導を受けられないため、ほとんどの子どもが途中離脱してしまうとのこと。
特別レポート 海を渡ったスポーツ天才少年たち 誰もが錦織圭になれるわけじゃない その光と影 http://t.co/M4pJZTOVeA
— 現代ビジネス (@gendai_biz) October 26, 2014
盛田正明氏が私財を投じて立ち上げた「盛田正明テニス・ファンド」は年に数百万と言われる強化費をすべて面倒を見てくれるが、多感な10代半ばで挫折を味わい、失格の烙印を押されることが正解かどうかは何とも言えないところである。
【盛田正明テニスファンドの内幕/武田薫】錦織圭を輩出 盛田正明が私財投じて財団を立ち上げた深層 https://t.co/87TqxE40jw #日刊ゲンダイDIGITAL
— 日刊ゲンダイ (@nikkan_gendai) July 18, 2019
ゴルフ
続いて頭に浮かんだのがゴルフ。
ゴルフもジュニア時代から強化にお金がかかり、それでもプロで頭角を現すのは一握りというイメージなのだが、下記を読むと確かにそんな感じっぽい。
子どもをプロゴルファーにするにはいくらかかる?ある女子プロの場合 https://t.co/gE4FvVNzle #GDOニュース #ゴルフ
— GDOニュース (@GDO_news) August 23, 2016
ささきしょうこ選手の家庭は本人がプロになると決意して以降、持ち家を売却して父親は脱サラ。用具代や練習場代など、娘をプロにするまでにおよそ5、6000万円ほどの金額がかかっているとのこと。
また、ジュニア大会で顔を合わせる選手の両親はほとんどが会社経営者や自営業だったという。
さらに「風の大地」の作者・坂田信弘氏が主宰する「坂田ジュニアゴルフ塾」の存在は僕も聞いたことがあるが、募集要項によると対象年齢は小学3年生~6年生までとのこと。
「入塾希望の皆様」
強化費をすべて負担してくれる反面、入塾にも面接選考があるなど親子ともに相当な覚悟がなければ足を踏み入れることすら許されない。その上、トップ選手になるには小学校時代から始めなければ間に合わない世界であると。
下記の大会スケジュールを見てもわかるように、各大会の優勝賞金は5000万円~2億円。海外の大会で優勝すればその10倍以上の金額になるなど、スポンサーからの支援を合わせればトップ選手の収入はとんでもない金額になる。
「日本ゴルフツアー機構 ツアートーナメントスケジュール2019」
だがテニスと同様、下位選手の待遇は厳しい。
シード権を失った選手はスポンサー契約も打ち切られ、自腹で遠征費を捻出して予選会に出場するため当然生活は苦しくなる。
スポーツ特別読み物 プロゴルファーの生き残り競争こんなに厳しい http://t.co/g0CJjDSqvU
— 現代ビジネス (@gendai_biz) December 27, 2013
また、翌年のシード権を得るためのQT(クオリファイングトーナメント)に出場するにも参加費が計50万円ほどかかるなど、“試合に出るためだけ”に毎年3桁の金額を用意する必要がある。
「日本国内でトーナメント出場資格を手に入れるには、一体いくらかかるのか?」
とは言え、ゴルフ界には協会公認のティーチングプロの資格制度があり、プレイヤーとして結果が出なくてもレッスンプロとして生活する手段も残されている。
「PGA公認ゴルフスクール紹介」
その他、ゴルフ場で働きながらプロゴルファーを目指す研修生を募集するなど、ジュニア世代や下位選手の支援という面ではそこそこ充実している印象である。
「研修生、練習生募集」
フィギュアスケート
フィギュアスケートは基本的にアマチュアなので今回の趣旨とは少々違うが、育成に金のかかるスポーツの筆頭に挙げられることが多い種目でもある。
ちょろっと調べてみても、とにかく「金がかかる」「親が大変」という記事ばかりが出てくる。
子供の習い事の費用・フィギュアスケートはダントツ高い!? #子供 #習い事 #フィギュアスケート https://t.co/qxPZJHTvpL pic.twitter.com/dvMa4IgxZY
— お金のカタチ (@okanenokatachi) January 30, 2018
フィギュアスケーター育成の厳しい現実…親が実態を吐露 | しらべぇhttps://t.co/c4v20QK4OK @sirabee_news pic.twitter.com/Z7TwrwPRah
— しらべぇ【公式】 (@sirabee_news) April 15, 2016
下記によると、日本スケート連盟の強化選手レベルで年間経費が数百万円。海外遠征や大きな怪我などをすればさらに費用はかさむとのこと。
「フィギュアスケートにかかる費用をぶっちゃける【続けるの大変!】」
トップ戦線で活躍する選手は年収1000万以上、羽生結弦などのメダリストになれば普通に億を超えるとのことだが、それはあくまで一握りの選手に限った話。
一説によると、オリンピックでメダルを獲得してこれまでかかった費用がようやくトントンになるくらいだとか。
しかもフィギュアスケートは選手寿命が短く、特に女子は10代後半から20歳くらいまでが全盛期。年齢を重ねて体型が変わるとジャンプにも影響するなど、とにかく繊細なスポーツという印象である。
22歳で「ベテラン」呼ばわりされているのを初めて聞いたときはマジでちびったからね……。
ちなみにフィギュア界屈指のスケート一族、本田太一、本田望結、本田紗来、本田真凜の実家はかなりの資産家という話は割と有名だったりする。
ボクシングもクラブオーナー制度が廃止になれば、ジュニア世代から強化費をつぎ込んで育成する競技になる? のかな?
こうして見ると、仮にボクシングの「クラブオーナー制度」が廃止になった場合の世界線も似たような感じなのかもしれない。
ボクシングの日本ランキングが思った以上にスカスカで驚いた話。格闘技に向いてる? あの競技から引っ張ってこられないんかね
プロで結果を出すには、最低でも10代前半で競技を始めなくては間に合わない。だが、トレーナーや練習環境は自分で用意しなくてはならないため、必然的に多額の強化費がかかる。
最低限の条件として、
・練習環境やトレーナー、遠征費を捻出できる経済力
・試合や合宿など、常時送り迎えができる時間的余裕
・多感な時期に競技に打ち込める精神力
つまり、プロボクシングで成功するには経済的に余裕があり夫婦円満、子どもに避ける時間がたっぷり取れる家庭か、育成のためにすべてを捨てる覚悟を持った猪突猛進型の現代版星一徹のような家庭のどちらかに生まれる必要がある。
すでにボクシングもアマチュアで実績を積んだ選手には手も足も出ないという状況ができつつあるが、仮にクラブオーナー制度が廃止になればますますそれに拍車がかかるのではないか。
また、厳しいジュニアの環境をくぐり抜けてプロになっても、結果が出なければトレーナーを雇う費用や遠征費が払えずプロモーターとの交渉もうまくいかずに困窮する可能性もある。
テニスやゴルフのように毎年決まった試合があるわけではないので、つまらない試合を繰り返せば興行自体に呼ばれなくなってしまう。
試合もつまらない、結果も出ない選手に果たしてスポンサーがつくのかどうか……。
路上で負け知らずの喧嘩自慢が一発腕試しに! 的なネタは完全に過去のものになると思われる。
テニスやゴルフ、フィギュアスケートと同様、ボクシングもいずれ「限られたセレブのお戯れ」or「すべてを捨てる覚悟で勝負できる」家庭にしかチャンスは訪れない、生まれた環境で運命が左右される運ゲー種目に変わっていくのかもしれない。
で、そのうちトップ選手が錦織圭や石川遼、羽生結弦のような王子様キャラで埋め尽くされたりね。
スポンサーや客受けのいい選手ばかりが優遇されて、青木真也や全盛期の伊達公子のように「何か知らないけど、いつも何かに怒ってる」選手が脚光を浴びる土壌は失われていくのかな? みたいな。
野球のMLBがドミニカやプエルトリコにアカデミーを設立してジュニア世代の青田買いを行っているが、現在、格闘技界ではUFCがその流れを作ろうとしているらしい。
「中国・上海でUFCアカデミー・コンバイン開催」
これが今後どうなるかは不明だが、野球のように貧困層からの一発逆転を狙えるくらいまで高度なシステムを構築できればってところか。
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