スタッツをほじくり返してボクシングの都市伝説を検証する。12Rはみんながんばるから11Rにがんばるべき? 初回は身体が硬い?

スタッツをほじくり返してボクシングの都市伝説を検証する。12Rはみんながんばるから11Rにがんばるべき? 初回は身体が硬い?

グラフイメージ
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僕はスポーツ選手のスタッツを調べてあれこれ適当に検証するのが好きだったりする。
 
「錦織圭とかいう史上最強()のスロースターター」
「歴代最高オールラウンダーはジョーダンorレブロン論争にケリをつける」
「ダラス・カイケルとかいう88マイルのシンカーをひたすら投げ続ける人」
 
など、過去にも何度か各スポーツ選手のスタッツをほじくり返してああだこうだと述べたりもした。
 
 
そして常々思っているのが、ボクシングにももう少し詳しいスタッツがあればいいなということ。
 
現状、両選手の戦績やランキング、身長、体重等のプロフィールや、パンチのヒット数/ヒット率といった基本的な数値は入手できるが、それ以上となると一気に情報が少なくなる。
 
たとえば、
・リングの広さ
・キャンバスの硬さ
・会場の温度、湿度
などの環境面の情報。
 
テニスで言えば、ハードコートorクレーコートで戦績が大きく変わるし、季節によっても得手不得手がある。
野球選手で言えば、マウンドの硬さや高さ、球場の広さ、屋内or屋外等の条件でシーズン成績が左右される。
あまり詳しくないが、F1などのモータースポーツでも路面の状態や天候によって刻々と戦術の変更を余儀なくされるのだと思う。
 
 
ボクシングでは長年、日本人選手がタイのリングで苦戦するケースが続いているが、じゃあ具体的な原因は?
「タイのリングは滑る」「酷暑の中でセレモニーが延々続く」といった話はちょくちょく聞こえてくるが、実際にはどうなの?
 
滑る材質ってどんなヤツ?
会場の温度、湿度はどれくらい?
 
アウェイのプレッシャー()やらマモノ()的な都市伝説ではなく、しっかりと言語化できる要因があるんじゃないの?
 
などなど。
 
表題の通りなのだが、今回はその辺のスタッツをほじくり返してみようという話。
「12Rはみんながんばるから11Rにがんばるべき」「初回は身体が硬い」といった経験則やイメージで語られる部分を検証してゴチャゴチャ言ってみようと。
 
 
需要があるかどうかは不明だが、いつも通り「自分が楽しければいいや」のスタンスでいきたいと思う。
 
「「山中慎介バンタム級トーナメント(仮)」開催決定。結構大変そうな大会だけど、優勝賞金100万円か…」
 

KO決着と判定決着の割合? 2010〜2019年に行われた世界タイトルマッチの結果を調べる

まず、世界各地では毎週のように世界タイトルマッチが行われているわけだが、KOと判定の割合はどんな感じなのか。
そしてKO決着となった場合、12Rの中のどのラウンドでのKOが多いのか
この2つを調べてみたい。
 
と言っても、あまりに大昔までさかのぼるのもアレなので、今回は2010~2019年まで。団体はWBA、WBC、IBF、WBOの主要4団体とする。
 
なお、4団体といっても統一戦を加味していないために多少の重複があること、Boxrecから僕が手作業で抜粋したので正確性に疑問符がつくことをお伝えしておく。
 
 
では、各団体ごとの判定とKOの割合から。
WBA_hantei
WBC_hantei
IBF_hantei
WBO_hantei
ご覧の通り、IBF以外の3団体は概ね判定決着の確率が47%前後。世界タイトルマッチの半数以上でKO決着が発生していることがわかる。
そして、なぜかIBFだけが60%近くの確率で判定決着となっている。
 
それらを総計したものがこちら。
2010-2019_hantei
2010年から2019年に行われた世界タイトルマッチでは、判定決着とKO決着がほぼ半数という結果。
ちなみにだが、4団体の合計試合数は1465試合。これが統計として適切かどうかは何とも言えないところである。
 
「最強スペンスがマイキーに大差判定防衛。ど正面からのどつき合いは見応えあったな。策士マイキーは黒星の代わりに評価を得たか?」
 

ラウンドごとのKO決着推移。中盤以降KO率が増加し、ラスト2Rで減少傾向に入る

続いては、各団体でのラウンドごとのKO決着の推移。
WBA_KO
WBC_KO
IBF_KO
WBO_KO
 
それらを総計したものが下記。
2010-2019_KO
各団体とも11、12RでのKO決着が少なくなっており、世界タイトルマッチではラスト2RのKOが起きにくいことが判明している。また、IBFを除く3団体はいずれも9RでのKOがもっとも多く、なおかつ前半よりも後半のラウンドでKOが発生する傾向が強い。
 
ためしにIBF以外の3団体での総計を出してみたところ、確かに9RでのKO決着が頭一つ抜けていて、逆に12RでのKOが少ない結果となった。
2010-2019noIBF_hantei
 
そして、もう一度4団体の総計を見てみると、
2010-2019_KO
3、5、7、9Rと、中盤からは奇数ラウンドでのKOが多くなっていることに気づく。
 
 
つまり、世界タイトルマッチでは
 
・半数以上の試合がKO決着となる
・中盤以降、奇数ラウンドでのKOが起きやすい
・9Rをピークに後半3RはKOが減少していく
・最終12RはもっともKOが起きにくい
 
ということになる(スタッツ上では)。
 
「リング禍の起こりやすい試合を考えてみる。まあ、僕はやっぱり超人が観たいよね。ルールに最適化された達人技」
 
なお、IBFに関してはKO決着自体が少なく、なおかつKOのピークは7R
これはサンプル数が少ないことによる偶然なのか、それともレフェリーの傾向なのかは不明である。
 
一応、スタッツ上では「基本的に試合を引っ張るレフェリーが多いが、ダメージが深い場合は早めに止める傾向」ということになる? のかな?
 

「12Rはみんながんばるから、11Rにがんばれ」ってマジなの? ラスト2Rで逆転する可能性は? 「初回は身体が硬いから注意」はどうなのよ?

次はボクシングでよく言われる格言について。
 
「12Rはみんながんばるから、11Rにがんばれ」
「初回は身体が硬いから注意」
この2つの金言? はテレビ中継などでもよく耳にするのだが、果たして本当なのか。
 
 
1つ目の「12Rはみんながんばるから、11Rにがんばれ」だが、これを検証するには10Rまでのポイントを調べなくてはならない。
 
ラウンドマストシステムが採用されているので、基本的にはどのラウンドも10-9がつけられる。1度のダウンが発生すれば、そのラウンドは10-8となる。
そして、1ラウンドで2度のダウンは起こりにくいと判断して、残り2Rで獲得できるポイントを最大4ポイント(10-8×2回)と仮定する。
 
つまり11、12Rで逆転するには残り2RでのKO、もしくは10R時点で4ポイント差以内をキープしている必要がある。
 
これを調べるために過去の世界タイトルマッチのスコアカードをランダムに入手し、10Rまでのポイント差を表記したものが下記(サンプル数が45試合と少なく、統計としては不完全であることをご了承ください)。
down_45
 
そして、10R時点で4ポイント差以内の試合がどうなったかの集計結果が下記。
down_34
ランダムに抽出した世界タイトルマッチ45試合中、10R時点で3人中2人以上のジャッジが4ポイント差以内としていた試合が35試合。そのうち、残り2RでKOを含む逆転が発生したのが5試合
 
全45試合という少ないサンプルではあるが、10R時点でリードを許していた側が逆転できる確率は約14.2%という結果である。
 
また、先ほどのKOラウンドの推移によると、11、12RでのKO勝利は全体の約9.7%。スコアカードが入手できた45試合に限って言えば約4.4%という低い数値になる。
 
「テイラーvsバランチェク実現? WBSSとかいう壮大な茶番に幸あれ。アリトロフィーの名誉()よりも実が欲しいんだよ」
 
2つ目の「初回は身体が硬いから注意」については下記がわかりやすい。
down_round
全45試合の中で発生したダウンが合計21回。そのうち半数以上の12回が1、2Rに集中している。
恐らく身体の硬さに加えて相手の動きに慣れていないのもあるとは思うが、これを見ると「初回に注意しろ」という金言はまさにその通りと言えそうである。
 

結論としてはこんな感じ。意外とおもしろい結果が出たぞ


以上を踏まえた上での結論は、
 
・世界タイトルマッチでは約半数がKO決着
・1、2Rはダウンを奪われる可能性が高いので注意
・でも、そこからの逆転は十分可能
・3R以降は奇数ラウンドでのペースアップが望ましい
・9RにKO決着のピークがくる
・最終12RはもっともKO決着が起こりにくい
・11、12Rでリードを許していた場合、逆転の可能性は約14%
・IBFは判定決着が全体の60%近くを占め、なおかつKO決着のピークは7R
 
「初回は身体が硬いから注意」の格言はガチで、「12Rはみんながんばるから、11Rにがんばれ」については「いや、もっと前にがんばっておけ」「9Rが狙い目だぞ」といった感じか。
ついでに言うと、「IBF王座へ挑戦する際には個別の対策が必要になる」のもあるかもしれない。
 
個人的には意外とおもしろい結果が出たと思っているのだが、どうだろうか。
 
朝倉未来「ボクシングの12Rは覚悟がいる」。でも12R制の醍醐味ってのも間違いなくあるよね。井岡一翔の試合運びは感動的ですらある
 
繰り返しになるが、サンプル数が少なく正確性も保証できないため、統計として適切とは言えないことを強調しておく。また、あくまで個人的な数字遊びに過ぎず、先人たちの経験則や言葉を否定する気もないのであしからず。
 

ボクシングのアナログっぷりにクタクタになったww スコアカードのデータベース化はめちゃくちゃ有益だと思う

しかしアレだな。
えらい疲れたww
 
これまでのスタッツ遊びの中でもダントツにしんどかったというか、正直二度とやりたくないww(頼まれてない)。
 
要は、前回の「マイケル・ジョーダンvsレブロン・ジェームズ」のようなヤツを「マイク・タイソンvsデオンティ・ワイルダー」みたいな感じでやりたいだけなのだが、それがちっとも進まない。
 
 
特に感じたのがスコアカードの不足っぷり。これは結構深刻な気がする。
団体の公式HPに行っても、試合によって入手できたりできなかったり。やっと見つけても達筆過ぎて読めなかったり。
 
てか、JBC管轄の試合でのスコアカードってどうしてるんだろうか。
もしかして、その場で捨てたりしちゃってんのか?
 
だとしたらとんでもない損失な気が……。
 
それこそ一括で管理してデータベース化すれば、めちゃくちゃ有益な情報源になると思うのだが。ボクシングはまだまだ掘れる余地がある競技だと思うし、僕のようなスタッツ遊びが好きな人間にとってもありがたい。
 
「あのときのあの試合はどうだった」という懐古的な話にはあまり興味がないのだが、こういうスタッツ方面のマニアックさは割と楽しいのでね。
 
そう考えると、やはりBoxrecの有能さは尋常じゃない
精度の怪しさ、コミッションの意向で改ざんされる可能性などなど。よからぬ話も聞こえてくるが、これだけ膨大な量のデータベースを無料で使えるというのは普通にすばらしい。
 
まあ、それでも全然物足りないけどね。
 
「15R時代との比較。12Rに短縮されたことでボクシングは変わったの? 日本にはホームアドバンテージがあるの? スタッツ遊び第2弾」
 
そして、もっとも驚かされたのがボクシング界のタイトルの多さ
「タイトルが多過ぎてベルトの価値が〜」的な話はしょっちゅう耳にするが、改めてこんなにあるんかい!? と。
 
主要4団体だけでもこんな感じ。
WBAtitle
WBCtitle
IBFtitle
WBOtitle
 
全然覚えきれねえっすww
 
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