箱根駅伝不要論? なくなるわけねえだろ? こんなよくできたシステム他にないぞ? お?
2016年の箱根駅伝が終了した。
青山学院大学が往路、復路ともに制する完全優勝で、しかも1区から一度も首位を譲らずの文字通りの完全なる優勝。1977年の53回大会の日本体育大以来、39年ぶりの快挙である。
昨年は5区の山の神こと神野大地の驚異的な走りに引っ張られての優勝という部分があったが、今大会では各走者が軒並み好タイムで区間を走り抜ける全員駅伝での連覇。最強青山学院大学の名を全国に轟かせる快挙となった。
「ボクシングのプロとアマチュアのイザコザが意味不明。既得権益? 何で田澤ルールみたいになってんの? 情弱な俺にも教えてくれよ」
箱根駅伝不要論、改革推進派。多くの意見が噴出するグレーな大会
大学長距離界の花形競技であるだけでなく、正月の風物詩でもある箱根駅伝。2016年大会も青山学院の華々しい活躍で幕を閉じた。
毎年視聴率25%前後を稼ぐお化け番組であるとともに、大学にとっても有力選手を集める絶好の宣伝効果を期待できる大会でもある。
そんな日本の誇る伝統の箱根駅伝だが、毎年大会が近づくにつれて不要論が噴出することも確かである。
「箱根駅伝でブレーキになった選手は二度と這い上がれない」
「箱根で燃え尽きる選手が後を絶たない」
「駅伝に特化した練習ばかりしているので、トラックやマラソンで通用しない」
などなど。
そして、最も多いのがやはり5区の山登りと6区の山下りによる選手寿命への影響だろう。
先日も「毎年必ず出る「箱根不要論」 選手の健康を本気で考える時期に」という見出しで、箱根駅伝の5区による選手への影響についての記事が大々的に発表されている。
「毎年必ず出る「箱根不要論」 選手の健康を本気で考える時期に」
要するに「あのコースはどう考えても身体に悪いですよ。このままだと箱根の山登りだけで選手寿命が終わる可能性が高いですよ」という記事である。
あれだけ起伏の激しいコースを短期間に何度も走るのは身体に残るダメージが大きい。休養が不足した状態で次の大会に出場したり練習を再開したりと無理を重ねるせいで、才能のある選手の将来が潰れてしまう。なくせというわけではないが、4年間で走る回数を制限するなど、何か対策を考えるべきではないのかといった内容の記事である。
「モデルボクサー世界挑戦! 女子ボクシングが格闘技界を救う?」
なるほど。
言いたいことは非常によくわかる。
確かに1月のクソ寒い中、あんな高低差が激しいコースを走るのは素人が見ても健康に悪いようにしか思えない。
しかも走る際に片足にかかる衝撃は自分の体重の2〜3倍?
普通に考えて常軌を逸している。
普段から鍛えているとはいえ、当然選手の身体にかかる負担も相当なものになるのだろう。
これは完全に素人の持論だが、僕は1人のランナーが競技人生の中で走れる距離と回数というのは、実はそれぞれ決まっているのではないかと思っている。
マラソンのポーラ・ラドクリフが2003年に2時間15分25秒というアホみたいな記録を出して以降、怪我に苦しんで最後までその記録に近づくことができずに引退したように、どこかで一度大爆発を起こすと一気に残数を減らしてしまうのではないかと思うのだ。
いわゆるそれが選手寿命というヤツなのだが、野球の投手の肩が消耗品と呼ばれるようにランナーの足もある意味消耗品の側面があるはずである。
そう考えると、箱根の5区の山登りと6区の山下りに関しては、1人のランナーが走れる距離と回数を一気に消費する要素がふんだんに含まれていると考えるのが自然ではないだろうか。
確かに世界で通用する云々の前に、一競技者を守るために箱根駅伝の改革は必要なのかもしれない。
箱根駅伝がなくなるわけねえだろ。これだけ日本人好みのシステム、他にあるか?
表題のとおりなのだが、箱根駅伝不要論者、そして箱根駅伝改革推進派の方に申し上げたい。
「ここまで日本人好みのシステムあるか?」
確かに「箱根駅伝」の存在は選手にとっても周囲の関係者にとっても正義であって悪でもあるのだろう。
そこに集中するあまりに燃え尽きるランナーもいるだろうし、ブレーキをしてしまった選手が二度と這い上がれないということもあるのだろう。本当かどうかは知らないが、箱根駅伝に特化した練習しかしない大学すらもあると聞く。
何より山登り、山下りは選手の将来にも直接影響するほど負担の大きなコースであることも間違いないはずである。
余談だが、僕の高校時代のマラソン大会は10kmのコースだったのだが、ラスト1.5kmくらいの地点から約1kmにわたって急な上り坂が設定されていた。考案者の性格の悪さを如実に表した悪趣味なコースである。
考案者は開校初年度の体育教師で、関係者の間では神格化された存在だったのだが、僕には頭のおかしい自己満足馬鹿にしか思えなかった。あのマラソン大会は今でも僕の数ある黒歴史の一つとして心に深く刻み込まれている。
「中学高校のマラソン大会を中止する方法←「あの行事の存在が許せない」「マラソン大会の意味がわからない」」
話を元に戻そう。
選手にとってこれほど負担が大きな箱根駅伝。不要論や改革論が噴出するのも至極当然だ。
毎年夏がくると高校野球否定派からの「甲子園不要論」とともに「僕が考えた最高の甲子園」というアイディアが数多く提案されるように、「僕が考えた最高の箱根駅伝」を語る人が増えることもうなずけるというものである。
ただ、箱根駅伝がいいか悪いかではなく、少し考えていただきたい。果たしてこれだけ日本人好みのシステムというのが箱根駅伝をおいて他にあるだろうか。
甲子園をも超える、日本人の理想論を体現した究極の大会。それこそが箱根駅伝なのである。
箱根駅伝がいかによくできた大会なのか。いかに日本人の心情を体現した大会なのか。これを見ればわかるぞ
このページの方が箱根駅伝について詳しく記述してくださっているのだが、本当にすばらしいと思う。
・1日目に1〜5区、2日目に6〜10区の計10人で走る
・出場校のうち10位までのチームが翌年のシード権を得られる
・出場校は前年のシード校10校プラス予選会を勝ち抜いた10校に関東選抜を加えた21チーム
・トップとの差が規定タイム(往路10分※ただし平塚・小田原の中継所は20分、復路20分)を超えると繰り上げスタートとなる
・予選会は1チーム12人で各チームがいっせいに走り、上位10人の合計タイムで争う。10位までのチームが本戦への出場権を得る
見れば見るほど惚れ惚れするシステムである。
10人がそれぞれ20km前後のコースを走るためにスーパーエースが1人いるだけでは勝てない。山梨学院のオツオリのように留学生ランナーがぶっちぎりのスパートで一時的にトップに立つことはできても、全員が均等に力を発揮しなくてはその順位を守りきることはできないシステム。
力を合わせて一つの目標に突き進む、チームプレー魂が大好きな日本人の心情のど真ん中を突いたルールである。
「受け取ったタスキがみんなの汗を吸ってズシッと重いんですよ」
過去の箱根経験者がインタビューで口にした言葉である。
テレビ局側の人間にしてみれば「もらった!!」と思ったひと言だったに違いない。
しかも各区間での選手個人の対決も見られるというおまけつき。花の2区と呼ばれるエース区間でスーパーエース同士がしのぎを削るシーンに手に汗握った方も多いはずである。
繰り上げスタートというのもまたオツである。
全長217.1km、合計タイムが11時間に迫ろうかという長丁場のレースである。20チームで走っていれば10分、20分の差など開くに決まっている。
毎年5〜6チーム前後のチームが繰り上げでいっせいにスタートするのだが、この繰り上げスタートを回避するための残り数十メートル、数百メートルのしのぎ合い。このギリギリの攻防も箱根駅伝の大きな見どころの一つである。
「選手の思いが詰まったタスキ、みんなでつないだタスキがここで途切れるのか!!」
誰が言っても間違いのないひと言である。
この決め台詞を言うために箱根の実況を担当したいと願うアナウンサーもいるのではないかと思えるほど、鉄板中の鉄板の名台詞である。
上位10校が本戦に出場できるという予選会のルールもいい。
1チーム12人が同時に走り、上位10人の合計タイムで競うルール。これもまたチームプレーと和を重視するドラマ好きの日本人が好みそうなシステムである。
極端な話、何人かの選手を適当に選んで密着すれば情熱大陸が3本分くらい軽く完成するのではないかと思えてくるほどである。
理想論? 正論? カンケーないね!! 感動と実利が半端じゃない箱根駅伝は現状がベストなんだよ
脱水症状や足の痙攣を起こしてフラフラになりながらも走ることを止めない選手。
ゴールした瞬間自力で立つこともできずに倒れ込む選手。
壮絶な山登りを終え、タオルにくるまれたまま満足げな笑みを浮かべる選手。
いいとか悪いとかではない。これは美談なのだ。
古き良き日本の侍魂、善悪を超えた浪花節の世界なのである。
余計な演出や引っぱり、煽り映像など必要ない。
ただ選手が死に物狂いで走っている姿を放送するだけで視聴率が25%を超え、その大会に出場したいと願う有力選手がこぞって入学してくれる。それが箱根駅伝という化け物コンテンツなのだ。
おわかりだろうか。
テレビ局にとっても、大学側にとっても箱根駅伝はなくてはならない大会なのである。そして、そのハイライトである往路の山登りはドラマ仕立てのドキュメンタリーにおいて欠かすことのできないスパイスなのである。
そこに理想論や正論などは入る余地はないのである。
まあ、現実的に考えて箱根駅伝がなくなったら長距離の競技人口がごっそり減るけどね。才能のある素材が長距離に見向きもせずに他のスポーツに流れるけどね。