「儲からない電子書籍」未来はどっち? 【出版社編】
お世話になっております。
今回は、中途半端で終わってしまった前回の記事「電子書籍は儲からないわww【出版社編】←あと5年はかかるでしょ」の続きを書きたいと思います。長くなりますが、お付き合いいただければありがたいです。
「Amazon PODを個人で利用するための解説書(Create Spaceの使い方を日本語で解説)「Create the Amazon POD」発売!!」の記事でお伝えした通り、先日書籍版とPDF版、そしてKindle版を同時に発売いたしました(Kindle版はAmazonでの販売です)。
その過程でいろいろと気づく点がありましたので、ご報告を兼ねて書いている次第です。
前回も書きましたが、こんな出版社を対象にした意見になります。
・数人から十数人規模の零細出版社
・基本的にデータ作成は内製
・出版不況のあおりで紙媒体の売り上げが落ちて、打開策を模索している
・宣伝にそこまで費用をかけられない
・HPやSNSを利用して情報を広げるノウハウがない
誰もが知っている有名な大手出版社ではなく、小規模の零細出版社。出版不況のあおりをモロに受けて存続すら危ういほどの危機を感じている出版社です。
「紙媒体と電子書籍を同時に出すのは意外と面倒くさい」
「電子書籍は紙媒体より安くないと売れない」
前回はここまで書きましたが、今日はその続きを書きたいと思います。
AmazonやGoogle Playで売っても間違いなく埋もれる
紙媒体の発売と同時に電子書籍を出すのが案外難しいことは「紙媒体と電子書籍を同時に出すのは意外と面倒くさい」で申し上げた通りですが、仮にその部分をクリアできたとして「どこで売るか?」という問題が立ちはだかります。
ある程度の販売数が必要な電子書籍を売る方法としてパッと思いつくのが、AmazonやGoogle Playなどの有名オンラインストアでの販売です。他にも探せば大小さまざまなオンラインショップが見つかりますし、STORES.jpやBASEなどの無料オンラインショップサービスを使うという手もあります。
ですが、やってみたらわかるのですが、こういったオンラインでの販売はそのままだと確実に埋もれます。
全部が全部ではないですが、著者が有名人であるか内容やタイトルに相当なインパクトがない限り、自然発生的に日の目を見ることはまずありません。
ところが大手と違って多額の宣伝費をかけられない零細出版社にとって、この問題を乗り越えるのはかなり難しいと思われます。
参入障壁が低く費用もほとんどかからない方法として、HPやSNSでの拡散が考えられますが、これもノウハウを持たない零細企業がゼロから始めるには相当の覚悟と時間、そして根気が必要になります。
・SEOを意識した適切なタグ
・訴求力のある文章
・魅力的なタイトル
・ユーザーが使いやすいデザイン
・アクセス解析
・他ユーザーとの交流
・更新の頻度
・次々登場する新しい技術への対応
通常業務を持つ人間が片手間でやるような作業では絶対にないです。ただでさえ少人数で忙しい会社が、そちら側に人数を割けないという部分は確実にあると思います。
「だったらWEB関連を外注すればいい」と思われるかもしれませんが、断言できますが「その費用があったら広告出しとるわww」です。
自社コンテンツを独自に売ればいい? ムリムリ
AmazonやGoogle Playなどのオンラインショップが厳しいなら、自社のHPで独自に売ればいいのではないか? もしかしたらこう考える方もいるかも知れません。
はっきり言ってそれこそ無理です。
・電子書籍フォーマットを開発できる
・買い物カートから決済までのシステムを独自に構築できる
・他社の販売サイトに見劣りしないほどの自社コンテンツを抱えている
・電子書籍化にわりと向いているマンガコンテンツを大量に抱えている
こんな条件を満たせる会社など、日本で数社の限られた大手のみといえます。それ以外の中小出版社に独自で販売サイトを作れというのは酷以外の何物でもないと思います。
上記の条件を満たす会社としてパッと思いつくのが「講談社」「小学館」「集英社」の三社でしょうか。試しにこの三社のサイトを見てみましたが、一番書籍の電子化に力を入れているのは「講談社」ですね。
→「電子コミック – 講談社コミックプラス」
これくらいラインナップが充実していて、企業体力もある会社なら先行投資として電子書籍部門に力を入れるのは全然アリですね。そして、中小零細企業がこれをマネするのは現実的に考えて厳しいと言わざるを得ないです。
僕も当サイトのオンライン書店を自作しましたが、実力的にも時間的にも妥協した箇所が多々ありますし、我ながら稚拙な作りだと感じる部分もあります。ただそれを外注コストをかけてまで修正する余裕もないので、残念に思いながらも公開しているという状況です。
だったら電子書籍の未来は一元化? それとも??
だとしたら零細出版社が電子書籍で収益を出すにはどうしたらいいのでしょうか。やはりデータの一元化を進化させる方向でしょうか。
元となるデータを一つ作って、それをほんの少しの手間で印刷用、電子書籍用、WEB公開用などに展開できるようにする。修正が入ったら大元のデータを修正するだけで展開したすべてのフォーマットがバージョンアップされる。
こうすれば制作コストも時間も大幅に節約できるし、各フォーマットへの変換時の人的ミスも最小限にできる。
おお、いいことばっかりじゃないか!!
まあ、厳しそうですね。
何年か前に「xmlでの一元管理・自動組版」というのが話題になったことを覚えていますでしょうか。データをxmlで作れば、印刷用やWEB用に簡単に展開できる。なおかつ修正は元のxmlをいじるだけですべてのフォーマットに反映されるという、まさに先ほどの話を具現化したものです。システム会社がこぞってxmlでの制作システムを構築し、大々的に宣伝していました。
「暴論キター!! おすすめ本は自力で探せ、名作に出会うにはクソほどハズレを引く必要がある。って、そんなわけねーだろww」
ですが、結局あまり浸透せずに下火になっているのが現状です。
導入コストやノウハウもあるでしょうが、現場で使える場面が少ないというのが大きな要因ではないでしょうか。現実的に、xmlで一元管理できるほど形式ばった仕事というのはほとんどないです。常に例外への対応に追われているのが実際の現場であり、xmlで優雅に自動組版なんぞをしている場合じゃないというのがそこで働く人の心の叫びです。
一元管理まではいかないまでも、手間とコストをかけずに複数フォーマットへの展開を実現するなら「電子書籍」→「紙媒体」の順番が現実的です。もっと言うならWEBページを電子書籍化→紙媒体へ展開するのがもっともスムーズな流れではないでしょうか。
電子書籍は内部的にはhtmlなので、WEBデータから電子書籍を作るのはそこまで難しくはありません。事実、多くの無料ブログが電子書籍化をサービスの一つとして提供しています。そこからさらに印刷用のデータへの移行もやろうと思えば案外すんなりいくのではないかと予想できます。
ただそれをやると、どうしても印刷版のデザインは陳腐になります。
理由は「紙媒体と電子書籍を同時に出すのは意外と面倒くさい」でも述べたように、電子書籍のデータと印刷を前提としたDTPデータはまったくの別物だからです。
恐らくhtml、cssが、将来的にDTPの自由度に追いつくのは無理なのではないでしょうか。というよりも、両者は構造的に別物なので追いつく必要もない、それぞれに進化していくものだと思っています。
ですが、今までの書籍を見慣れた読者にとってそんなことは無関係で、「デザインがあまりにヒドい」「読みにくい」「お金をとるレベルに達していない」というクレームは当然出るものと思われます。
そういえばAdobe Digital Publishing Suite(DPS)ってどこいった?
ちなみに電子ブックソリューションAdobe Digital Publishing Suite(DPS)って今どうなってるんでしょうか。
確か2011年にAdobeが大々的に投入して、かなり話題になった記憶があるんですが。こちらも最近あまり効かないような気がしますが、いかがでしょうか。大手の出版社さんは使っているのでしょうか。
僕も当時興味があったのでセミナーに行ったりしましたが、「すごいけど、広まらないだろうな」というのが偽らざる感想でした。大宮エリーをゲストに呼んだりして、相当気合いが入ったセミナーだった覚えがありますが。
「人工知能の進化は翻訳業界の未来を奪うのか? 翻訳者の将来性は? ターミネーターの時代は本当に来るの?」
動画を埋め込んだり音楽を流したり、WEBページと連携したり。そういったインタラクティブな電子書籍を直感的に作成できるのがウリだったと思いますが、実は読者は電子書籍にそこまでインタラクティブを求めていないです。
むしろ紙媒体の簡易版。お手軽にダウンロードできて場所を取らない、しかも安いことに価値がある。そういう考えの読者の方がはるかに多かったということではないでしょうか。
さらに言うと、インタラクティブといっても購入を決意するほどのインパクトはなかったと思います。例えばスーツでバッチリ決めたお姉さんが3Dの立体ホログラムでガイドしてくれるとか。そのくらいのインタラクティブさがないと、訴求力としてはちょっと弱かったのではないかと感じます。
まあ、そこまでいくと電子書籍である意味自体が薄れてくる気もしますが。
とにかくこれも大手出版社だけに焦点を絞った製品で、中小零細の出版社には縁のない話というのは間違いないです。
実は期待してます。電子書籍市場拡大
ここまで電子書籍に対してだいぶ否定的な意見ばかりを並べてきましたが、実のところ電子書籍市場には多いに期待しています。
小さな出版社が電子書籍で収益を得るのは難しいと申し上げましたが、それはあくまで現状では難しいという意味であって、金輪際無理と言っているわけではありません。
2014年の紙媒体の出版物の売り上げが1兆6,000億円で、前年より800億円のマイナス。一方電子書籍の2014年度の売り上げが1,050億円で23.5%の増だそうです。2014年と2014年度なので単純な比較はできませんが、今のところ電子書籍市場はまったくお話しにならない規模です。
ですが、今後タブレットの低価格化と、iPhoneの5.5インチのようにスマートフォンの画面の大型化が進んで、リーダーとしての端末が普及すれば加速度的に電子書籍市場が拡大する可能性はあるはずです。今は無理でも、5年後にはもっと簡単に電子版と印刷版を行き来できるフォーマットが開発されているかもしれません。
そうなったときに、編集者やデザイナーさんなどのプロフェッショナルな方々が、無料ブログを電子書籍化しただけの簡易なサービスとの格の違いを見せつけてもらえればなと思っております。「タダで提供しろ」などという暴論を一瞬で黙らせるくらいのクオリティの違いを目の前に突きつけてやってもらえればと思います。
電子書籍の過渡期を狙った高額な編集サービスや、昔の一冊数百万の自費出版サービスなどのアコギな商売ではなく、ハイパーメディアクリエイター的なアレでもなく、プロフェッショナルな方が適正な価格で電子書籍の編集に携わる。そういう時代がくればいいなと、出版・制作業界の端っこにいる人間として期待している次第です。
「WEBから入ったので紙媒体の経験がありません」という若いデザイナーがここ数年出てきているように、もしかしたらこの先「電子書籍の編集しかしたことがありません」という編集者が現れるかもしれません。
だから後5年。
後5年だけがんばって、この出版不況を乗り越えていただきたいです。
いや〜、厳しいかな……。
最後に
すみません。
こんなに長くなるとは思いませんでした。
本当は「取次と出版社、書店の関係」とか「印刷コスト」や「委託販売」について数字を調べて順序だてて書こうと思ったんですが、「何かつまらんな」と途中で方向転換しました。
それで、熱量のままに書いてみたらこんなに長くなってしまいました……。
感じたままに書いている部分が多いので、矛盾点などがあるかもしれません。お見苦しい箇所等ありましたらすみません。
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